「うぇひっ!?」「舐めた口利いてんじゃねえぞ」 静かな声だった。怒ってるんだとすぐに分かる。オレ、またやっちまったのか?「す、すんませんでした兄さん」「何も考えずに謝んなクソボケが。テメェまだ自分の立場ってもんが分かってないみたいだな。はぁーったくジャストのやつ……」 ソブラ兄さんはガシガシと頭をかいて、明らかにイラつきながらそう言った。 オレはハッとする。オレの軽率な言葉で、兄貴が侮られちまった!「……いいか、メイドってのは誰のもんだ。言ってみろ」 大きなため息の後、ソブラ兄さんが口を開いた。 メイドは誰のもの……誰のもの? …………あ。「……セカンド様っすか?」「即答しろクソカス。テメェは誰のもんだ? 誰に買われて、誰にこんな良い生活させて貰ってる?」「セカンド様、っす」「俺は誰のもんだ。えぇ? 三十半ばのくたびれたオッサン奴隷を買ってウン百万の借金肩代わりして衣食住に給料までくれるのは誰だ? 言ってみろッ! 言えッッ!」「せ、セカンド様ですっ!」「……ボケが。セカンド様のものに手ぇ出すワケねえだろうがたわけ。二度とふざけたこと言うんじゃねえぞ。次は股間にぶっ刺すからなクソガキ」 ソブラ兄さんはタバコの火を消して、オレに背中を向けて去っていった。 仰る通りだ……愚問だった、な。 オレはガクッと項垂れて、反省しながらトボトボと自室に帰った。使用人用のドでかい豪邸の、これまた馬丁の奴隷のもんとは思えねぇくらいマブい部屋だ。夜になりゃ何もしなくてもあったけぇメシが食堂で出る。 ふかふかのベッドに寝っ転がり、ぼんやりと天井を見上げる。 ……なんとなく、ここは楽園だなぁなんて思ってた。オレは恵まれてるって。でも、誰のお陰で楽園なのかは実感できずにいた。 ジャストの兄貴に、リリィさんに、ソブラ兄さん。あの四天王の三人に言われて、ようやくほんのちょっぴり分かったような気がした。 いつかオレにも実感できる日が来るんだろうか。もしそうなら、早く来てほしい。 そんなことを考えながら、少し眠った。