「こりゃ無理だな。とりあえず水が引くのを待とう」 水が引いてから、ゴムボートで渡るのが一番安全そうだ。 少し街道を戻り、道脇の草を草刈機で刈る。終わったら、シャングリ・ラで1級破石ってやつを買う。20kgで500円もしない。 10袋購入して、皆で協力し家が置くスペースに敷く。「よし、家召喚!」 敷いた砂利の上に家が落ちてきた。「ジタバタしてもしょうがない。休むとしよう」「あの、ケンイチ――ここで商売してもいいですか?」「いいけど……」 プリムラは根っからの商売人だ。本当に物を売って、金を稼ぐのが好きなようだ。それが、小銭でも構わないらしい。「それじゃ、ウチは晩飯を獲ってくるにゃー!」「俺も行くぜ!」 こちらの獣人は根っからの狩人だ。「よしよし、行って来い」「にゃー」 ベルもパトロールへ行くようだ。大丈夫だろうな、ここら辺の住民に見つかって狩られたりしないだろうな。 彼女を顔を見ると、「私はそんな間抜けじゃないわよ」みたいな顔をしているので、黙って見送る事にした。 プリムラはスープや食べ物を売りたいようなので、道具や食材をアイテムBOXから出してやる。 アネモネも、やる事がないのでプリムラの料理を手伝うようだ。ついでに晩飯の作りおきを作ってしまうと言う。「皆に任せて、俺は休むよ」 家の前はプリムラとアネモネに任せて、俺はベッドを出して、家の中で横になる事にした。 ――目が覚めた。横になっていたら、ちょっと眠ってしまったようだ。 だが、なにやら外が騒がしい。 外へ出ると、プリムラの露店は客で一杯だった。なにやら知らない女も働いている。「これは美味いスープだ!」「焼きたてのパンも美味い!」「こんな所でこんな食事が出来るとは……」 旅先だと保存食が多くなるからな。パンも保存が利くようにカチカチだし。「ああ、ケンイチいいところへ。ワインを出してください」「なんだ、ワインも売るのか?」「はい」「それは、良いが――その女性は?」「忙しいので雇いました」「あはは、だって今日半日、手伝っただけで小銀貨1枚(5000円)だって言うしさ」 中年の女性だ。ちょっと小太りだが胸がデカい。粗末な麻の上着と紺のロングスカートを履いて、小さな前掛けをしている。 さすがプリムラ。役に立ちそうな人材には、目ざといな。 俺は後ろを向くと、シャングリ・ラから1万5千円で小型のオーク樽のワインサーバーと、12本で6000円の赤ワインを2セット買う。 本物のワイン樽も売っているのだが、新品とアンティーク含めて5万円~15万円ぐらいする。 結構高い物なんだな。それに容量も225Lとか半端ない。 このワインサーバーには10L入るようだから、750mlボトルの赤ワインが12本で9L――ちょうどいいぐらいに一杯になる。 ワインのスクリューキャップやコルクを抜くと、漏斗を差し込んだオーク樽の中へドボドボと流し込んだ。 銘柄が違うのに中で全部混じってしまうが、一番安いワインでもここでは上物らしいから、これでいいだろう。 そして、テーブルをもう一個追加して、ワインサーバーをデーン! と載せた。「悪いが、手酌でやってくれ。この取手を押すと、ワインが出るから」 俺に言われて、金を払った商人らしい男が、自前のカップにワインを注いだ。 緑色の服を着た、口髭を生やした40ぐらいの男だ。そして一口飲む。 他の客がそれをじっと見つめている。おそらく金を払う価値があるのか、様子を伺っているのだろう。 さすが商人だ。価値のないものには絶対金を出さない。