そして茶色い金網の向こう、見下ろす位置に主役であるワニが待っていた。 川原の岩に近しい色合い、ごつごつとした大きな鱗をした体表、そして口を半開きにさせ寝入っている様子へ彼女の薄紫色の瞳は輝いた。 うん? 手招きをして、耳元へ背伸びしてくるのは何故かな。 耳はすっぽりと手で覆われ、ぽしょりと「魔物!」と囁かれれば、くすぐったいを通り越してしまうんだよ? どうやら本日も、エルフさんは僕の頬を崩壊させるつもりらしい。完全に崩壊してしまう前に、彼女の間違いを正しておかなければ。「じゃないからね。これは熱帯に生息する動物だよ」「あら、そう言われれば。魔物ならこれだけ近づいたら襲って来るわね……」 少し戸惑ったかもしれない。日差しを受け、でろんと寝転がる姿をしている姿に。日向ぼっこをしているらしく、それぞれ好きな岩場や水辺へと陣取っているので「すやぁ」という擬音さえ良く似合う。 棘だらけの背中といい、強靭そうな大顎といい、強そうなことこの上ない。しかし予想に反してピクリとも動かないものだから、まるで精巧な石像を見ている気にもなる。 少女は金網へとしゃがみこみ、ワンピースから白い両膝を覗かせた。「知らなかったわ、リザードマンから『マン』を外すとこうなるのね」「ふむ、言われてみると似ておるなぁ。あやつらが二足歩行をやめたら、こういう姿になるやもしれぬ」 覗き込むマリーの上から、ウリドラは顎を頭へ乗せてくる。 しかしまあ、びっくりするほど動かないね。なかには口をぱかっと開けたまま眠っている者もおり、その呑気な姿には少女もクスリと笑ってしまう。「ワニは夜行性なんだって。だから昼間はああして日向ぼっこをして過ごすみたいだよ」 そう教えると「ほう」と呟いて黒い瞳をこちらへ向けてくる。「ますます似ておるな。わしのところでも働いておるが、最近は侵入者も来ないし、わしも日本で遊んでいるせいで身の回りの世話も少ない。故にあのようにグデっと寝てばかりじゃ」「気の良いリザードマンたちだったね。ただ、僕らをウリドラの寝床へ案内するのはどうかなと思ったけど」「うむ、知能も低いので実際のところ大して役立たぬ。だが単純作業ならば何かと便利でのう……ふむ、そうじゃ」 何かに気づいたのか、ウリドラは傍らのシャーリーへと顔を向ける。 見知らぬ生物というものに興味津々なのか、金網のあいだから青空色の瞳をじっと注いでいた。「シャーリーよ、おぬしのところでリザードマンを働かせても良いぞ。第二階層広間も拡張の時期じゃろう」