皇后陛下 俺は仕方なく風魔法を使い空気の入れ替えをし、光源魔法を使い部屋を明るくし、ポチを聖十結界に閉じ込めた。「…………何かおかしいです!?」 檻の中で囚人の如く叫ぶポチ。「仕方ないだろう。皇后陛下がここを出るまで我慢してくれ」「交渉は?」「……トロピカル猫まんま三日と、その期間、糖の摂取を無制限で許可しよう」「塩分摂取の無制限許可と百ゴルド以上の高級料理を注文させてください」 一万ゴルドあれば魔法大学に入学出来るっていうのに、何を贅沢な……! まぁ、この先ポルコからのお給料もドンと入ってくるだろうし、三日くらいならありか。 古代とはいえ使い魔杯の決勝まできたんだ。多少のご褒美も必要だろう。「交渉成立だ」「快適な結界空間ですー!」 一度万歳をし、笑顔でお座りに入ったポチを後目に、俺はそそくさと皇后の方へ振り返った。「終わったかえ?」「お待たせして申し訳ありませんでした」「よい。じゃがまだ足りぬな……?」 目を細くした皇后はその瞳をベンチの方へと流した。 なるほど、確かに立たせておくのはまずいな。俺は出したい溜め息を堪え、肩と首元にあるマントの留め金を外す。 外したマントをベンチの上に置き、そして地に垂らした。 何も言わぬ皇后が口の端を少しだけ上げると、ゆっくりと、そして優雅に腰を下ろした。 流石だな、そんじょそこらの女性とは座り方一つとっても気品がまるで違う。 皇后……か。アイリーンとは全く違う人生を送ってきた老齢の女性か。 女としてのスキルが高そうだな。いやはや、俺の苦手なタイプだ。「ふぅ、楽にせい」「はい」 皇后にそう言われ、俺は正していた姿勢を休ませ、手を後ろで組んだ。「おや? その年で子持ちかえ? 苦労するじゃろう?」 おっと、そういえばレオンが丸見えだったが、大丈夫なのだろうか? ポルコもそこは気にしていなかったし、それは大丈夫なのか。 そもそも皇后がレオンの顔を知っていたら俺たちを使い魔杯には出さないか。「えぇ。しかし物分かりのいい子なので、こちらが助けられています」「ふん。赤子の泣き声など口に綿でも詰めておけばよいのだ」 ダメです。 まったく、自分がそうされた事がないからそう言え――――「少なくとも余はそう育った」 された事があるのか。 なるほど、この人の半生が少し見えてきたな。 仕方ない。少し反論する形になるが、言っておくべきか。「綿は……詰めちゃダメだと思いますよ。その時の赤ちゃんの要望を汲み取ってあげるといいです」「へぇ、余に刃向かうかえ? 短命が好みとあらば叶えてやってもよいのじゃぞ?」 焦る必要はない。自分のペースを出す事がダメなんだ。 皇后のペースにさえ合わせればこの場は持つはず。 俺はそう思い、ゆっくりと首を振る。「そんなつもりは毛頭ございません」「ふん、同じ事。夫の唾付きならば尚更な」 ……まぁアダムス家とフルブライド家の両当主が来ていたら気付くよな。 さて、そこまでわかっていて皇后がここから出ていかないのには理由がある。 当然――――「じゃが、そんな話はどうでもよい。そなた、ポーアとかいったのう。余に仕える気はあるかえ?」 単刀直入だな。しかし予想は当たった。 俺の勧誘。皇后に戦闘能力がなくてもあの準決勝は、ポチの強さを肌で感じる事が出来ただろう。 ポチという使い魔の戦力が欲しいのならば、口説くのはその主。 実際使い魔杯の出場者には毎年、色んな職場からスカウトが来るって書物で読んだ事があったしな。 まぁ、今回は皇后が直接来た訳だが……さて、どう逃げよう?