走ることに集中していたら、前方に、溝が見えた。セキさん達が作ってくれた堀だ。そこまで大きくない堀なので、馬で簡単に飛び越えられる。 魔物にとっても、今まで木々をばったばったと踏みつぶしながら進んでいたし、何より甲羅の中に思いのほか長い手足を隠し持っているので、これぐらいの凹凸ぐらいなら、気にせず進むはず。 魔物がこの溝を越えれば……。 思いっきり馬をかけさせて、セキさんが掘った溝を飛び越えていく。 あとは、魔物がこちら側に入ったら、セキさんに川の水を流してもらうだけ……。 と、思っていたら、後ろから追いかけてきていたはずの魔物の地響きがやんだ。 まさか、結界に入る前に立ち止まった!? 私は慌てて後ろを振り返ろうとしたその時、私の隣を併走していたアズールさんが、馬から投げ出され、宙に舞ったのを見た。 アズールさんは、前に飛んでいき、バランスを崩したような馬は、なぜか後ろに引っ張られるように下がっていく。 馬のお尻にあの亀の魔物が噛み付いていた。 魔物の首が、まるでゴムのように伸びて、アズールさんの馬のお尻を噛みついていたのだ。そして馬に噛み付きながら魔物の首が甲羅の方へ戻っていく。 あの魔物、手足も長かったけれど、甲羅の中にあんなに長い首を隠し持ってたのか……。あの不吉に感じた振り子のような動きは、勢いづけるための動作……!「アズールさん!」 アズールさんが大きな音を立てて、地面に打ち付けられた。 私は馬から飛び降りながら、他者を治療する魔法を唱える。 チラリと魔物の様子を見れば、くわえた馬をおもちゃのように地面に打ち付けて遊んでいた。あいつ……いい趣味してる! 親指を歯で切って、血を出してアズールさんの口のなかに血を出した指を突っ込む。 血を直接体内に入れるほうが魔法のオーラのようなものの周りが早く、傷も早く回復するということを、今までの経験で学んでいた。 アズールさんの口に指を突っ込みながら、オーラの動きや、アズールさんの様子を確認する。 体を強く打ち付けて意識を失っているように見えるけれど、命に別状はなさそうだ。 ただ、骨がいくつか折れているのかもしれない。肋骨の辺りで、魔法のオーラがより集まっている。 治癒の痛みで、アズールさんの体が電気ショックを受けたようにビクリと動くが、今は治癒の魔法が完治するのをゆっくり見ていられない。