「グロリア様、グロリア様」「……もう、こんな時間?」「そうなのです、そろそろ試合のお時間です」「駄目ね、本を読んでいるとつい時間を忘れてしまう」「今季は出場者が二人もいるのです、これは凄いことです」「本当、凄いこと。まるで物語のよう」「早く参りましょう、さっさか参りましょう」「ええ、そうする」 薄暗い書庫の中に、ぼんやりと浮かぶ灯り。 その下で本を読むエルフの女が一人。 彼女は名をグロリアといった。 エルフにおいて、その名を知らぬ者はいない。 銀色の姫君と、そう謳われていたのは過去の話。今や、孤高の姫君であり……そう、愛書狂という言葉が相応しいだろう。 いつからか、彼女は本の魔力に取り憑かれてしまった。 誰もが羨む美貌と、腰まで伸びた美しい銀髪は、未だ健在。しかし、彼女の生活は本・本・本。一日中、書庫に籠っては本に読み耽る。 外に出る用事といえば、新たな本の買い出しや、本に書かれていたことを試すため。彼女の行動には、必ず本が関係していた。 実に変わり者と言える。だが、それだけならば、彼女が数十年間も孤立する理由としては……弱い。「樿か、欅か、どちらかの気分」「欅がいいです、欅がいいです」「そう。では、欅にする」「わーい、わーい」 欅の棒をインベントリに仕舞い、書庫を後にするグロリア。 書庫を出ていったのは、彼女一人だけ。 彼女の出ていった書庫には、誰も残っていない。 一体全体、グロリアは誰と会話していたのだろうか……。