ザビリアはクェンティン団長とザカリー団長を交互にねめつけると、まるで威嚇するかのように口を開いた。「フィーアを預けていくよ。僕が戻るまで、必ずその命をつないでね」そうして、落としたばかりの角を団長たちの前まで蹴りやる。「それは駄賃だよ。フィーアを守るため、あんたたちのなまくらな剣の代わりにするといい」「こ、黒竜王様の角をオレの剣に……!!」クェンティン団長が感極まったように絶句した。「フィーア様は必ず、必ず、オレの命に代えましてもお守りします!!」そうして、ザビリアの角欲しさに大変な約束を簡単にしている。「ちょ、クェンティン団長、魔物との約束は破れませんよ! 契約になりますから!! もっと、考えてから……」「心配ご無用です、フィーア様! オレは黒竜王様の角のためならば何でもできます!!」「そ、そうですか……」本人の希望ならどうしようもないわねと思っていると、ザビリアは首をぐぐっと下げて私の近くまで顔を近づけてきた。そうして、真剣な目で私を見つめると、口を開いた。「フィーアと僕は繋がっているから、フィーアに何かあった時は、まず僕が絶命する」「えっ?!」あまりの話に驚いて声を上げると、ザビリアはふふふと笑ってきた。「だからね。僕はまだフィーアと色々なことをしたいから、無茶をしないでくれると嬉しいな」「しない! 絶対におとなしくしているわ!!」「ふふ、それはフィーアらしくないね。フィーアはフィーアのままでいてくれれば、良いんだよ。呼んでくれたら、僕はいつだって駆けつけるから」ザビリアは器用に片目を瞑ると、おどけたように首を傾げた。「フィーアが僕のことを忘れないうちに、すぐに戻ってくるよ。……またね」私は両手でザビリアの顔に触れると、こつんと額を押し付けた。「……ええ、ザビリア。大好きよ。あなたが帰ってくるのを、待っているわ」私の言葉を聞き終えると、ザビリアはばさりと空に向かって羽ばたいた。そうして、あっという間に飛び去って行った。騎士団長会議で決まった段取りを思い出したのは、ザビリアが見えなくなってからだった。「ク、クェンティン団長、い、石を投げないと! 霊峰黒嶽の石を投げてください!!」私の声にはっとしたクェンティン団長は、ザビリアが消え去った方角へ向かって、遅まきながら石を投げた。「ま、まぁ、順番はあれですけど、手順は踏んだということでよいですかね?」