風が彼女の髪をなびかせ、さらさらと首筋をくすぐる。 しっとりとしたその髪は夕日により桜色へ染まりつつあった。 しなだれかかるエルフの体温に、どこか呆然としている自分がいた。 ベンチへ腰掛ける僕らの前を、さわさわと人々は通り過ぎてゆく。なのに騒がしさよりも彼女の心音を強く感じてしまう。 すい、と少女の指が伸ばされ、それが唇へと触れてくる。 白く華奢な指先には花びらが乗っており、「んふ」と小さく笑われた。 ああ、もう少しかかりそうだ。僕の心臓が落ち着くまでは。 じわりと伝わる体温に、心まで溶けてしまいそうな錯覚をした。 この日、さくらまつりは快晴と桜吹雪で観光客を楽しませたらしい。 それはもちろん幻想世界から来た半妖精、マリアーベルとは関係ないだろうけど、僕はなんとなく「次の年も来よう」と思ったものだ。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ あれから言葉少なに僕らは帰途についた。 どこか身体は熱っぽく、そのせいでいつもより安全運転を心がけていた記憶はある。 やはりおじいさんの用意してくれた夕飯は美味しかったが、あまり味を覚えていないというのが正直なところだ。たぶんエルフの甘い味がまだ残っていたせいだろう。 それほどに桜と少女の印象は強く、ざぼりと湯船へ肩までつかっても頭を占めていた。 ――ちょうどその時のことだ。