つい先ほど「玩具なんて子供の喜ぶものだわ」などと助手席からブーブー文句を言われていた。同様に黒猫も、興味無さそうに窓の外を眺めていたものだ。 しかし黒猫を抱えたマリーは、当の玩具屋に入るなり「わ!」と声を上げ、立ちすくんでしまう。 体育館よりも広い店内。ずらっと奥まで棚は並び、所狭しと子供向け用品が並んでいては確かに驚くだろうね。幻想世界にはもちろん、ご近所でもそうそう見かけない広さだ。 はあーとエルフ、それに黒猫は溜息を漏らす。「えぇーー……。これが玩具屋、さん?」「そうそう、広いよね。さすがにクリスマス前日だと混みそうだから早めに来たかったんだ」 こういうとき、海外資本の玩具屋があると嬉しいね。 クリスマスというのを理解しているし、同じ宗教観を持たない日本人にはあまり真似できない。「じゃ、さっそく行こうか。今日は大忙しだから、二人とも寄り道をしないでついてくるんだよ?」「ええ、それくらい任せて頂戴。確かに広くて驚いたけれど、玩具なんかに興味を引かれる年ではないもの。ウリドラ、あなたこそしっかりしないといけないわ」「にううーー!」 うん、その片手を突き上げたポーズは、頼もしいのか危なっかしいのかまるで分からないね。 実際、この後にレゴやらぬいぐるみやら、ローラーブレード、リモコン玩具、数え切れぬ種類のボードゲームなどなどなど、彼女らが動けなくなるポイントが多数現れてしまうのだが……まあ、それは分かっていたので気にしないようにしよう。 やや気になるのはオセロや将棋か。 あれは年末年始の連休にあると楽しめそうな気がする。夢の世界の娯楽について僕はあまり詳しくなく、チェスみたいな物もあるのだろうか。もし知らないなら楽しんでくれるだろうか。「寄り道はしないとあなたが言ったのでしょう? ここに置いて行っちゃいますよ」 ああ、しまった。まさか僕が怒られる事になるとは。 そういうわけで、カートに黒猫をブラ下げて僕らは店内を進む。広くて床もぴかぴかなので、速度の出しすぎには注意をするんだよ。などと思いながら、カートを押すエルフの補助をする。 早い時間とあり客はまだ少ない。けれど、やはりクリスマス用品売り場に集りつつあった。その人垣の間から飛び出しているツリーは、言うまでもなくお目当ての品だ。 カートを横付けにして止めると、彼女らの瞳もそちらを向いた。「なにかしら、この飾り立てた木は。あ、そういえば昨夜の商店街でも同じものを見かけたわね」「うん、今日はこれを買って帰ろうと思って。部屋に飾るとしたら、どれが一番良いか皆で選ぼうか」