今年はエーレンフェストで過ごす時間が長くなることを伝えて、わたしはソランジュから受け取った空の魔石を聖杯に漬けて魔力を満たす。そして、残った魔力を去年と同じ大きな魔石に注いでもらった。虹色が少し濃くなったので、またしばらくは大丈夫だろう。 ……これでよし。今日のお仕事終了。 ジギスヴァルトが興味深そうに図書館の魔術具を見つめる隣でわたしは用を終えた聖杯を消して、ふぅ、と一仕事を終えた息を吐いた。次の瞬間、シュバルツとヴァイスがわたしの手を引いた。「ひめさま、じじさまもまりょくいる」「じじさま、よんでる」「あぁ、そういえばオルタンシア先生がいらっしゃらないのですから、そちらも魔力を供給した方が良さそうですね。ソランジュ先生、どうしましょう? わたくしが供給してもよろしいですか?」 上級貴族のオルタンシアが就任したので、わたしは手を出さずに任せきりだったけれど、いないのであればそちらにも魔力を供給しておいた方が良いだろう。気付かない間に突然図書館の機能が止まったら大変だ。「ローゼマイン様に余裕がおありでしたら、よろしくお願いいたします。中級貴族のわたくしではとても全ての魔術具に供給できませんから……」 オルタンシアがいなくて本当に大変になったようだ。申し訳なさそうにソランジュから頼まれて、わたしは二階の閲覧室へ向かう。奉納式の後で回復薬を飲んだので、魔力的には全く問題がない。「ジギスヴァルト王子、わたくし、二階の魔術具にも魔力供給をしてまいります」「ローゼマインは本当に図書館が大事なのですね。正直なところ、ここまでたくさんの魔力を図書館に供給していると思いませんでした」 ジギスヴァルトの言葉に笑顔で頷き、わたしはシュバルツ達や側近達と一緒に階段を上がる。「じじさま」への魔力供給は二階の閲覧室の奥にあるメスティオノーラの像が手にしているグルトリスハイトの魔石に触れればよかったはずだ。 わたしはグルトリスハイトの魔石に手を触れた。ずわりと魔力が吸われていく。どのくらい必要なのかわからずに魔力を流していると、突然脳裏に魔法陣がくっきりと浮かんだ。 目の前の景色の上に魔法陣が光っているように見えて、目の前がチカチカしたわたしは思わず目を閉じた。暗くなった視界にくっきりと魔法陣が見える。 ……神具が作れるようになる時の感覚と同じ? そう思った途端、フッと体が宙に浮いたような気がした。バランスを崩して倒れそうになっているのか、と慌てて目を開ける。「え? 何?」 何故かわたしは真っ暗な空間にたった一人で立っていた。クラッセンブルクの学生達との顔合わせもして、貴族院の奉納式を行いました。祭壇の全ての神具から光の柱が立ったので周囲は驚いていましたが、ローゼマインの感想は結構派手くらいです。図書館の「じじさま」によって事態が動きます。次は、じじさまです。