「ご存知のように、奇跡の行使には一定額の寄進を要します。『嘘看破センス・ライ』ほどの高徳の奇跡となると、銀貨の十枚、二十枚で済むものではありません。ソラさまはその金額を用立てることができますでしょうか?」 受付嬢はそう言って俺の顔をじっと見つめる。 繰り返すが、この受付嬢は俺に除名くび処分を言い渡した当人だ。俺が昇級試験に要する銀貨一枚を用立てることさえ出来なかった事実を知っている。 その上でこの問いかけ。向こうの意図は明白だった。 考えてみれば当たり前だろう。 ギルドにしてみれば『隼の剣』は貴重な戦力だ。依頼達成率も高く、住民の人気も抜群。 その『隼の剣』が醜聞にまみれれば、被害は当人たちのみならず、ギルドや他の冒険者にも及んでしまうだろう。 除名した元十級冒険者とCランクパーティ、重要度において比較にもならない。 多少強引な手を使ってでも被害を未然にふせぐ。それがこの場にいる受付嬢の役割なのだろう。「……こういう時はギルドが支払うものじゃないのか?」「ギルドが必要と認めれば、そうです。ですが今回の件はソラさまからの提案ですので、支払いの義務が生じるのはソラさまとなります」「今の話を聞いても奇跡の必要はないと?」「実際に何が起きたかは把握しました。しかし、そこに悪意があるというソラさまの意見は、過去の出来事に影響されているように見受けられます」「パーティを追放された恨みを晴らそうとしているってわけか。それなら、なおさら『嘘看破センス・ライ』で白黒つけるべきじゃないか?」「ですから、それをお望みなら必要な金額を用立てていただきます、と申し上げているのです」 ち、と舌打ちした俺は、もう一方の当事者に声をかける。「おい、サウザール商会の娘。『隼の剣』のリーダーでもいいが、無実を証明する良い機会だぞ。金を出さないのか?」「必要ない。俺はミロを信じてる。奇跡に頼る必要なんてない」「わ、わたくしはラーズに信じていただければ十分です。あなたのような人にどう思われようと、知ったことではありません!」「……はあ。そうか、なら仕方ない」「それでは、提案は取り下げということでよろし――」「俺が払うしかないな」「………………え?」 言って、俺は懐から取りだした金貨を一枚、卓の上に乗せる。 それを見て、ぽかん、と口をあける受付嬢。 はじめて見る表情に自然と唇が歪んだ。「銀貨の十枚、二十枚ではきかないという話だったが、実際にはいくらなんだ? 金貨一枚では足りないのか?」「え……そ、それは」「ならもう一枚? それともさらにもう一枚? まだ足りないなら、ほうら、もう一枚。さすがにこれなら足りるだろ?」 言いながら鼻歌まじりに金貨を積み上げていく。