逆恨みと知りつつ、自らの恐怖を誤魔化す為にこの辺境へとやってきて商人達を襲いながら金を稼いでいたのだが……「だってのに、また現れやがって」 脳裏を過ぎる、グリフォンの姿。 それが誰なのかは、考えるまでもない。 自分に恐怖を抱かせ、戦争の後には深紅と呼ばれるようになった冒険者だ。 苛立たしげに、そして自らの恐怖を押し殺すかのように再び乱暴に干し肉を噛み千切ると……「頭、セラビアさんからの連絡が来ました」 テントの外から聞こえてきた部下の声に、急いで酒で口の中にあった干し肉を流し込む。「それで、状況は?」 喉が干上がる。酒ではなく水を飲みたい。それもコップに1杯や2杯ではなく、浴びるように。 そんな風に思いながら尋ねたエベロギの問い掛けに、部下はすぐに答える。「紐の色からすると、獲物は健在。脅威はない。襲撃再開せよ。以上です」「……ふぅー……」 部下の言葉に、エベロギは深く安堵の息を吐く。 グリフォンが商隊から離れていったのは、他の偵察の者から聞いてはいた。だが、それでもしっかりと深紅がその場にいないと確定するまでは、どうしても安心出来なかったのだ。 だが……と考える。(深紅ってのは盗賊を襲うのを半ば趣味にしているようなところがあるって噂がある。そんな奴が俺達をみすみす見逃すのか? いやまぁ、確かにこの林の中にアジトを構えている以上、奴お得意の上空からの偵察でここを見つけるのは難しいだろうが。なら、尚更俺達を待ち構えるんじゃないのか?) レイに対する恐怖からではあるが、それでもエベロギはレイの狙いを正確に読んでいた。 それでも襲撃を止めるかどうかを即決出来ない辺り、欲と恐怖の間で揺れているのだろう。(深紅なんて存在が出てきた以上、ここでの仕事は無理をしない方がいいか。なら、奴がいない今回の件を最後の仕事にして、そのまま辺境から消えた方がいいだろうな。後は一応念の為に……) 頭の中でこれからの事を考え、ゆっくりと数分程経った後で口を開く。「よし、その商隊を襲撃するぞ。馬車は動けないんだったな?」「遠くから見た限りだと、修理をしているらしいので恐らく」「……よし。お前達もそろそろ街が恋しくなってきただろ。今回の仕事で一旦この辺りからは退くぞ」「分かりました。……いや、襲撃の時に捕まえた女もそろそろ限界だったんで、助かります」 部下の言葉に鼻を鳴らして、残っていた干し肉全てを口の中に放り込んで酒で流し込むようにして腹に収める。 愛用の武器である長剣を手に取りテントから出たエベロギは、視界の隅にゴブリンの死骸を目にする。 マジックアイテムを使っているというのに、何故か昨日から妙に多く襲ってくるようになったのだ。 いや、正確には襲ってきたと言うよりは紛れ込んできたと表現する方が正しかった。 歴戦の傭兵部隊であるだけに、ゴブリン数匹が紛れ込んできても特に混乱するようなことはなかったが。 寧ろいい的になるといった感じで、弓の標的にされている者や、面白半分に殺されている者の方が多かった。