「悪人だぁ? 義賊が悪人だなんて誰が決めたんだい? あんたに悪人と言われる筋合いはないよ。あたいはね、あたいの好きなように義賊をやるのさッ……!」「お嬢は、義賊は悪人ではないと仰るのですか」「違う。あたいが、あたいのやり方で、確認すんのさ。義賊が、悪人かどうかをね」「甘い。後悔しますよ」「女々しいよ。認めな……あたいの、義賊の形を」「……どうしても、カタギには戻っていただけませんか」 キュベロの最後の問いかけに、レンコは「ふっ」と一笑し、口を開いた。「クソ喰らえさ」 ハッキリと答えを提示する。 そして、「それにね」と一言、ふらつく体をなんとか両の脚で支え、《桂馬体術》の準備を開始しながら、口にした。「指図されんのは、嫌いだよ――ッ」 キュベロは静かに俯き、瞑目する。 その間、僅か一秒。彼の口元は、一度笑ったように曲がり、そして、顔を上げる頃には、鬼の形相となっていた。「はッ!!」「ふッ!!」 レンコの《桂馬体術》による飛び蹴りと、キュベロの最大まで溜められた《飛車体術》の拳がぶつかり合う。 まるで岩と岩が凄まじい速度で激突したかのような轟音が鳴り響き、衝撃と同時にぶわりと土煙が舞い上がった。「……お見事」 土煙が晴れると、そこには。 倒れ伏すレンコと、微笑みを浮かべるキュベロの姿。「――それまで! 勝者、キュベロ!」 あれほど、怖い思いをさせたというのに。 最後の最後まで、レンコはレンコ流の義賊を貫き通した。 自分の足で立ち上がり、自分の言葉を口にした。 それができるのなら、もう何も心配は要らない。「お嬢、お見事……!」 もう一度だけ、キュベロは噛み締めるように呟くと、インベントリからハンカチを取り出し、顔に滲んだ汗を拭った。