「せ、セカンド氏! なんとなんと拙者――」「セカンド!!」 まず立ち寄ったA席で、汗だくのムラッティに詰め寄られたかと思えば、その間に満面の笑みのシェリィが割って入ってきた。この二人、勢いが凄い。「何」「私、一等よ!」「おお」 そうだったな。ビンゴの一等は、シェリィと聞いている。 俺がシェリィに食いつくと、ムラッティは「あっあっ」と小声で言って中腰になりながらひょこひょことバックして席に戻っていった。相変わらず間が悪いというかなんというか、すまんが後回しだ。「このシェリィ・ランバージャックが一等よ! この天才精霊術師で霊王戦出場者の伯爵令嬢がねっ!」「よさんか、恥ずかしい」「何よ、お兄様。あ、わかった。羨ましいんでしょ?」「違う。私は単に伯爵令嬢たる振る舞いをしたまえと」「ふふん! 何を言われようと、一等は、私よ!」「やれやれ……」 シェリィの兄ヘレスが注意するも、シェリィは有頂天で全く聞く耳を持たない。「シェリィ様、もう三杯も飲んでいます」 傍で聞いていたチェリが耳打ちしてくれた。 確かに顔が赤く目が据わっているが、それにしてもテンション高すぎである。 まあ、でも、そのくらいに喜んでくれているというのは、俺としても嬉しいことだ。「シェリィ、何がいい? まだ決まっていないなら、後日でもいいが」「景品の話ね? 私は、もう決めてるわ」 一等~三等の景品は、お好きな「大スキル」を一つ。 【剣術】なら、歩兵~龍王まで全ての習得方法を。【魔術】なら、いずれかの属性の壱ノ型~伍ノ型まで全ての習得方法を教える。 さて、シェリィは何を選ぶのか……。「――魔魔術よ!」 彼女は、ズビシ! と俺に指をさし、不敵な笑みでそう宣言した。「ほー!」 思わず、俺は感心の声をあげる。ナイスチョイスと言わざるを得ない。 魔魔術――つまり《複合》・《相乗》・《溜撃》の三つ。 これの何がナイスかって、非常に“応用”が効くのである。 この三つのスキルは、魔魔術だけではない。魔剣術や魔弓術など「魔乗せ」ができるスキルであればなんでも使えるのだ。「魔術は、自分で覚えるんだな?」「既に土属性・参ノ型まで覚えてるわ。肆ノ型と伍ノ型は、伯爵家の縁故なりなんなり使って覚えるわよ」「形振り構っていられないってか」「ええ、じゃないと追いつけないもの。生まれに感謝だわ」 持てるもの全てを最大限に使って追いかけてくるらしい。 ……本当に変わったなあ、シェリィ。 生まれに振り回されるのではなく、生まれを振り回すようになった彼女は……強いだろうな。途轍もなく。「一等おめでとう」 俺はインベントリからメモ紙を取り出し、そこに複合・相乗・溜撃の習得方法を書いて、シェリィに手渡した。 シェリィはそれを受け取ると、不敵な笑みを崩さずに、挑戦的な目をして口を開く。「また、冬に会いましょう」 たった一言。だが、俺の一番喜ぶ一言。 シェリィはそうとだけ言い残し、ふわりとスカートの裾を摘んで会釈すると、席へと戻っていった。 全く、粋な女だ。「セカンド氏ぃ! もうよろスィでございしょうか!?」「近い近い近い顔が近い!」「こりゃまた失礼あそばせっ!」 忘れていた。ムラッティは、ラスト・ワン賞の二十七等だったな。 確か……そうでした。「なんでも」、でしたっけ。「セカンド氏ぃ~……なんでも、するって、言いましたよぬぇ~? んん~~?」 ムラッティはねっとりとした口調で催促してくる。端的に言って気持ち悪い。「えっそれは……そうだっけ?」「ちょ、誤魔化されんのだが拙者ぁ~~~! この~~~!」「ぐええぇ! やめろやめろ! わかったから!」