一閃座挑戦者決定トーナメント準決勝第一試合、レイヴ対ヘレス・ランバージャック。 俺は出場者席から対峙する二人を観察していた。 どちらかというと気になるのはレイヴの方だが……審判の号令と同時に二人が構えた瞬間、俺の興味はヘレスへと移った。 ヘレスのやつ、アレは、まさか。「ツヴァイヘンダーやな」「だな。両手剣か……あぁそうか、なるほど」 隣に座っていたラズが、ヘレスの武器を目敏く見抜く。 ツヴァイヘンダー、鋼鉄製の両手剣だ。これは大剣とまではいかないまでも、重く、長く、取り扱いの難しい剣である。 ……冬季では、ヘレスは長剣を使っていたはずだ。何故、この半年でがらりと武器を変えてきたのか。理由はハッキリしている。 俺の『セブンシステム』に、リーチで対抗しようと考えたんだろう。 悪くない戦法だ。あいつは“攻めっ気”が強い。俺の初手にカウンターで無理矢理決めに来ようとしていたあたり、まさにと言える。だからこそ、リーチを活かして常に先手を取り、俺のペースを乱そうとしていたんじゃなかろうか。「なんや、センパイ楽しそうやな?」「あ? 笑ってたか」「そらもう! めっちゃ良い笑顔やん」「……ヘレスがめっちゃ進化してたんだ。笑顔にもなる」「ほ~ぉ」 あいつ、常識をかなぐり捨てやがった。 後手有利という常識を、綺麗サッパリ。 武器も、戦法も、常識も。持てる全てを一度捨て、ゼロから新たなことに挑戦する。 シルビアとエコが通った地獄の道を、ヘレスもまた独自に通っていた。 それもこれも、俺に勝つため。勝ちたくて、勝ちたくて、何がなんでも勝ちたくて、その一心で、地獄の半年を過ごしたのだろう。 ああ。それってさ、やっぱり愛だよな。「――始め!」 試合開始の合図。 レイヴは相も変わらずセブンシステムの初手、《歩兵剣術》《桂馬剣術》複合をヘレスの右足先目がけて突き立てた。 一方、ヘレスは……「お、ええんちゃう?」 下段の構えから、カウンター気味に横方向へステップを踏んでいる。 そうだ。ラズベリーベルの言う通り、良い動きだ。 長剣でカウンターを狙い《銀将剣術》を振り下ろせば、セブンシステムの餌食となる。しかし、長剣ではなく両手剣となれば話は別。そもそものリーチが違いすぎるため、セブンシステムの初手が届く前に両手剣が先に届き、呆気なく返り討ちにあってしまう。「なんか笑てまうな」 一気に間合いを詰める二人を見て、ラズがそう口にした。 言わんとしていることはわかる。これはつまり、定跡覚えたての初心者が全然使いどころじゃない場面で無理に定跡を使おうとしている図。微笑ましいというかなんというか……つい、笑みがこぼれてしまう。 でもな、実は続きが、あることにはあるんだ。 さて、どうするレイヴ君。 ヘレスも、ラズさえも、気付いていないようだぞ。 君が俺の動きをただ単に丸パクリしているだけなら、これで終わりだが。 その“先”まで準備をしているのなら――「!?」 二人がぶつかる寸前。 レイヴは突如、スキルをキャンセル。 そして、ヘレスが振り下ろすツヴァイヘンダーに背を合わせるようにして、前進しながらクルクルと反時計回りに二回転、一瞬にしてヘレスの背後へと回り込んだ。 やはり、こうなったか……!「嘘やろっ」 思わず立ち上がるラズ。 ははは! 笑えるな。 大剣も両手剣も、接近されるのが一番怖い。つまり、攻撃が目的じゃない。接近こそが目的。