そういいながら仏壇へと案内をされる。 畳敷きの間には陽が差し込み、僕らはそっと手を合わせた。説明せずともどのような慣わしなのか分かるらしく、マリーは静かに線香の香りに包まれる。 黒猫の足を拭いていたおじいさんは、僕らの背中へと明るく声をかけてきた。「なに、俺はてっきり嫁でも連れてくると思ったからさ」 ぱちんっ!と2人で目を見開いてしまった。 嫁という言葉に反応し、ちらりと少女へ目を向ける。するとマリーも手を合わせたまま僕を見上げ、互いにゆっくりと頬を熱くさせてゆく。 真ん丸に見開かれた瞳は綺麗なもので、むにむにと唇は歪んでいるものの否定をするような言葉は出てこない。いやきっと、少女も同じことを思っていたのだろう。 どちらも否定することなく見つめあっているものだから、代わりにおじいさんが声を上げることになった。「なんだおまえたち、まんざらでも無い顔をして。ははあ、なら退職してここを継いでもいいぞ」 皺だらけの日焼けした腕で黒猫を抱き上げると、にうと小さく鳴いてくる。 それがまるで「その通りよ」と言っているように聞こえたが、なかなか僕らは否定の言葉を出すことは出来なかった。