「えーい!」「わんわん!(ふははは、余裕! 余裕ですよ、お嬢様!)」 メアリお嬢様が放り投げたボールを、俺はダッシュで追いかけて、空中でキャッチする。 今日も女剣士ゼノビアちゃんが帰ってこないので、俺たちはおとなしく中庭で遊ぶだけだ。「わんわん!(へいへいへーい! ピッチャービビってるぅ!)」 ボールをくわえてお嬢様のところへ駆け戻る。 めっちゃ楽しいわこれ。 尻尾もブンブン振るわ。 それにしても純真に遊ぶこの俺の姿! どこからどう見ても、犬! なのではなかろうか!「ロウタ、すごいです! 速いです!」「わん!(せやろ! もっと遠くまで投げてええんやで!)」「行きますよー。とりゃー!」「わん!(ふははは、超加速ー!)」 ばひゅんと駆け抜けると、つむじ風が巻き起こった。 お嬢様がスカートと髪を押さえて笑う。「あはは! ロウタ、すごいです!」「わんわーん!(ボール投げ、たのしーい!)」 俺は加速したままに飛び上がり、高くボールをキャッチした。 着地して、てってこ駆け戻る。「ふふー。ロウタはお利口さんですねえ」「わんわん!(せやろせやろ! もっと褒めて! もっと撫でて!)」 お嬢様の柔らかい手が、俺の頭を優しく撫でる。 むふー、至福のひとときじゃぜ。「お嬢様ー! お食事の用意ができました。そろそろお戻り下さーい!」 声の方を見ると、若いメイドさんが屋敷から手を降っていた。 あ、先輩のメイドさんに、ちゃんとそばまで行って呼んできなさいって怒られてる。「あっ、もう終わりですか……。もっとロウタと遊びたいです」「くーんくーん(俺もお嬢様ともっと遊びたいですぜ……。でも昼メシも大事! 食べたら木陰で読書しましょうよ! 俺が極上の背もたれになりますから!)」 しょんぼりするお嬢様の周りを駆け回って、なぐさめる。「わかりました。お昼ごはん食べたらまた一緒ですよ」「わん!(はい喜んでー!)」 俺はお嬢様を見送って、その足で台所裏へダッシュで向かった。