ぐ、ぐ、ぐー、と徐々に速度を上げてゆく感覚がある。はやぶさの最高速度320キロを目指して加速しているらしく、それに合わせて僕の手を少女は強く握ってくる。 大丈夫かなと隣の様子を見ると、マリーは少しだけ涙目になり首を横へ振っていた。「けっこう、怖いわっ。ねえ、しがみついて平気、かしら?」 当たり前だけどエルフ族にとっては未知の速度であり、いまだかつてない速度に怯えているのだろう。どうぞと身振りをすると、手すりごしに少女から遠慮なく腕へしがみつかれた。「じっと、しててね……ひうっ……目が回りそうっ……」 妖精のように可愛らしい子から、両腕と太ももから挟まれると恥ずかしいものがある。 けれどこのようにびくびくしている様子も可愛らしいかな。いつも気丈なものだから……あれ、どうなのだろう。映画を一緒に見ていると感情豊かだと思わされるし、最近は甘えられる事が多いから分からなくなって来たな。 しかしどうして怖がるんのだろう。 はやぶさは速度をあげても車体が安定しており、揺れるようなことはあまり無い。 ぽんぽんと背中を叩いているうち、ようやくその原因が分かった。恐らくは窓の外の景色があまりに早く、少女は怖くなったのだろう。ぎゅうと瞳を閉じるとともに、少しだけ落ち着くのを見てそう思った。 ようやく腕の力は弱められ、安堵の息と共に見上げてくる。しかし顔色はまだ青いようだ。「ごめんなさいね、邪魔をしてしまって……すこし平気になったわ」「やあ、あったかいね。けれどもう少し近くのほうが嬉しいかな」 え?という呟きを気にせず、身を離そうとする少女を抱き寄せる。 そしていつも少女を寝かしつけていた位置、胸のなかへと抱えると「人前だから」と恥ずかしげな声が聞こえてきた。「青森は冷えるらしいからちょうど良いかもしれないよ」「もう、馬鹿ね……」