「さて。私も、やることやらないと、ね」 セカンドが謁見へと向かっている間、シルビアは第三騎士団へと報告に、ウィンフィルドは王都ヴィンストンの中心へと繰り出していた。 ただ、中心といっても暗くじめじめとした場所。光がさせば影ができる。当然のことだが、王都ヴィンストンにも“裏”があった。 顔を仮面で隠し、体は外套で隠す。怪しいことこの上ない様相だが、場の雰囲気には合っていた。高身長ということもあり、一見すると男のようである。そのため、柄の悪い男たちの巣くう路地裏でありながら、彼女に声をかけようという者は誰もいない。「ねえ、ちょっと、話があるんだけど」「あぁ? 誰だ?」 ウィンフィルドは路地裏の突き当たり、浮浪者のような格好をしたみすぼらしい男に声をかけた。一見すると、その男は周囲の浮浪者たちに溶け込んでいたが、たった一つだけ違う箇所があった。彼の目は死んでいなかったのだ。「浮浪者ごっこ、楽しい?」「…………場所を変えよう」 男は沈黙の後、冷や汗を垂らし、喉奥から搾り出すようにして言った。 男は焦る。そして考える。何故バレたのか、と。確かに危ない橋は幾度も渡っていた。数え切れないほどの修羅場を掻い潜ってきた。今回もそうである。「浮浪者のフリをして『王立公文書館』職員の住む集合住宅のゴミ捨て場を漁る」など、過去の修羅場に比べたら軽いものであった。「君、ブン屋でしょ? ヴィンズ新聞、かな?」「……だったらどうした」 男は更に焦る。ものの見事に言い当てられたからだ。 ヴィンズ新聞社の新聞記者がこんな場所でこんな格好をして何をしているのか。関係者なら一目である。消されたって仕方がない、と。本人でさえそう思えた。ゆえに、男は恐れおののいているのだ。 そんな様子を見たウィンフィルドは、鼻で笑い、口を開く。「良いネタが、あるんだよね」 精霊界一の軍師による仕掛けが始まった。 駒がぶつかる時は、近い――