彼らが認識できたことといえば、目の前を走っていた男がいきなり倒れて、地面に大量の血を流しながら首を転がしていることに気付いた程度だろう。 ただ転んだだけではなく、誰がどう見ても致命傷である首のない死体。 それがついさっきまで自分の前を走っていた男たちと知って、どうしてそれ以上前に進めるだろうか。「ひぃっ?!」「な、なんなんだよ?!」 改めて気功剣を解除して、山水は彼らの前に立つ。 激しさも重厚さもなく、彼はただ全員と敵対していた。 夜の空の下、明かりを背にしていることもあって、何とも言えない不気味さを醸し出している。 ここで彼らには、逃走という選択肢が存在していた。 いいや、正しく言えばその選択肢が脳裏をよぎったということだろう。 目の前の、返り血も浴びていない子供。その姿を見て、恐怖を感じていた。 その一方で、矜持がそれを許さない。単なる子供を前に、自分が逃げるなどあってはならない。 そう思ったとしても、さほど不思議ではない。山水が、もう少し派手に強ければそれができたかもしれない。だが無関係な話だった。 山水はドゥーウェに皆殺しにしろと命じられていた。彼らに活路はない。「「「おおおあああああああ!」」」 破れかぶれだった。 奇声を発して、大上段から斬りかかる。 言ってしまえば恐怖からくる無様な一撃であり、殺意さえなかった。 とにかくこの状況が変わってほしいという、浅ましい期待を込めた一撃だった。 それを、数人が行う。数人が、タイミングをずらしながら斬りこむ。 その全員が転ばされて、前のめりに膝をついていた。 そして、その場の全員が山水の殺傷を見る。 首を斬りやすい姿勢にした山水が、その剣を振り下ろして首を転がしていく様を。「……首を切り落とす、とはこういう事か」 痛んでしまった剣を捨てると、自分が切り伏せた男たちから剣を取る。 そして、改めて構えた。先ほどまでと何も変わらない構えだった。「次は立ったまま切り落とすか」 この、想像外の怪物を前に襲撃者たちは硬直していた。 散発的に威嚇の声が上がっているが、どれもまとまりに欠けていた。 おそらく、剣の訓練をするとしてももう少し勢いというものがあったはずだ。 気力を発するはずだ、激しい筈だ。なぜそうではないのか、まるで分らない。「あ、相手は一人だ!」「そうだ、何をビビってやがる!」「殺せ、どのみちそうしないと駄目だろうが!」 自分をごまかし周囲を鼓舞する。 得体のしれない子供も恐ろしいが、それよりも確実に訪れるソペードの軍勢が恐ろしい。 前に進むしかない、敵を殺すしかない。そうなのに、なぜそうできない。「もういい、俺がやる!」