「なるほどなぁ……でも、俺達が肉なんて練ったら毛だらけになっちまう」「別に手でなくてもいいんだぞ? 木のヘラで練ってもいいんだ」「そうか、そうだな」「でも、柔らかい肉ばっかり食っていると弱くなるとか言う、頭の硬い男もいるにゃ」「ああ、いるなぁ~そういうやつ……」 どうも獣人の男、あるあるネタのようだ。確かに顎の力は鍛えられるから、噛み付きの攻撃力は上がるかもしれない。「けど、獣が獲物を仕留めたら、柔らかくて栄養のある内臓から食うんだぞ?」「そうだよなぁ」 あれこれ喋りながら食べている獣人を横目に、アネモネとプリムラは黙々と、カレーを食っている。「アネモネ、今日は静かだな」「美味しい物は、じっくり味わうの! こんな美味しい物が2つ合体するなんて、今日は特別なんでしょ?!」「今日は、家の完成祝いだからな」「カレーに、この穀物は合いますわ! これは、とても美味しいです。ケンイチがいつも食べているのも納得です」 そりゃ、不味ければ米は主食にならないからな。「多分、麦でも美味しいと思うが……」 麦ごはんでカレーって食った事があったかな? 記憶にないが……。「街の奴らもよぉ――香辛料を買い占めて値段を釣り上げている奴らに文句を言えば、こういう美味い料理が食べられるようになるってのに」「そうにゃ!」「しかし、こんな洗練された香辛料料理の事を、街の人達は知りませんから」 プリムラの言うとおりだ。「旦那が言ってたけど、自分が不幸だって知らないってのは、幸福な事なんだな」「まぁな」「でも、俺は知っちまったから、もう戻れない……」「ウチもにゃ……」「全く、旦那の料理は、女を虜にする悪い薬みたいなもんだぜ」「人聞き悪いなぁ」 プリムラにサンタンカの村の様子を聞いてみるが、順調に干物やスモークサーモンの生産が行われているようだ。 まぁ、手間が掛かるだけで、そんなに難しくはないからな。魚を三枚に下ろすのだって、特別なテクがいるわけじゃないし。 村では、子供と女達が総出で、俺から買った毛抜きを使って骨を抜いているらしい。 忙しくなれば人手が欲しくなる。排他的だった村でも、新しい村民を募集しているという。ちゃっかりしている。「そりゃ貧乏な村だからさ、新しい仕事が出来て金が儲かると解れば、考えを改める奴だっているんじゃね」「泣いていた子供にリンカーをあげれば、泣き止むみたいなもんにゃ」 そのリンカーだが、スモークサーモンを作る際の燻蒸チップに、リンカーの木が使えるという事だ。 俺も、チップを貰って匂いを嗅いで見たが、リンゴのチップに良く似た匂いをしている。十分に燻蒸に使える。 魚の干物やスモークサーモンも順調に売れているようだが、かなり大きな湖なので、獲物に困る事はないだろう。