お正月、私は栗きんとんを食べながらとんでもないことに気が付いてしまった。
もしかして、鏑木ってば優理絵様に振られたのでは?!
あのテスト結果は、振られたショックで勉強も手に付かない状態だったからなんじゃないかな。そして旅人は失恋傷心旅行に出たのではないかな。
凄い、今年の私は冴えている…。
でも振られ方が君ドルと違う。だってマンガでは傷心旅行にも出ないし、振られる頃には若葉ちゃんともう少し接点があったはずだし。
うーん…。マンガとは少しずつ話が変わってきてるのかな。そもそも若葉ちゃん苛めの急先鋒の吉祥院麗華の妨害がないんだもんね。
それに主要人物の性格も微妙に違うように思えるし。私がマンガを読んできゃあきゃあ言っていた皇帝は、間違っても騎馬戦に異常な情熱を燃やし、人の仮装に獣鼻指導をしてくるような体育祭バカなキャラじゃなかった。もっとクールだった。円城だって皇帝と若葉ちゃんを見守る優しい人で、決してあんな腹黒じゃなかった。そもそも髪が蜂蜜色じゃない時点で、マンガとは違う。
それに…、若葉ちゃんがちょっとおバカさんになってる気がする……。
なんだろうなぁ、この主要キャラ全体に漂う残念臭は。
それと対照的に、君ドルには出てきていないお兄様や伊万里様や友柄先輩のかっこ良さときたら!この人達が登場していたら、確実に人気が出ていたはず!特に友柄先輩なんてマンガのかっこいい皇帝みたいな雰囲気も持ってるし。
イレギュラーも多いから、このままマンガと違う展開になっていくのかな。まぁ私の人生が平穏無事なら、別にいいんだけど。
とりあえずもらったお年玉は全額貯金しとこ。でもお兄様からいただいたお年玉は枕元に飾って毎日拝んでいます。
3学期の始業式にも鏑木の姿はなかった。まだ旅の途中なのかな?
新学期を迎えても皇帝不在ということに、高等科だけではなく中等科の生徒達も騒いだ。たったひとりの生徒の欠席にここまで影響力があるとは。
サロンに行くと、久しぶりに円城が来ていた。ピヴォワーヌのメンバーに囲まれて鏑木のことを聞かれている。
「雅哉は新年早々風邪を引いてしまったので、大事をとって休んでいるんです。あと何日かで登校すると思いますよ」
風邪?傷心旅行からは戻ってきているのか?いやいや、まだ傷心旅行と決まったわけじゃないか。自分探しの旅かもしれないし。個人的には旅に出たくらいで見つかる自分なんてたいしたもんじゃないと思うけど…。
円城は私を見つけると、周りの方々に挨拶をしてこちらにやってきた。
「明けましておめでとう、吉祥院さん」
「おめでとうございます、円城様」
円城は私を周囲から見えないところに誘導して、なにやら袋を渡してきた。
「はいこれ。雅哉をあちこちに迎えに行った時の、お土産という名の口止め料」
え…、なんか怖い。
「…それは、お心遣いありがとうございます」
笑顔の円城から物凄く消極的にお土産を受け取った。
円城、わざわざ鏑木を迎えに行ってあげたんだ。しかもあちこちと言うことは何ヶ所もあったってことでしょ。ただでさえ年末年始は忙しいのに、円城も友情に篤いな。なんだかんだで面倒見いいもんね、この人。
「鏑木様は風邪を引いてしまわれたとか」
「そうなんだ。今も自宅で静養しているよ。寒い場所にばかり行っていたからね。しかし病は気からって本当なんだねぇ。すっかり弱っちゃって」
「そうなんですか…」
“寒い場所”“病は気から”やはり傷心旅行か?!
寒い場所というと北欧とかロシアあたりかな。あ、皇帝ナポレオンがロシア行っちゃまずいか。でもシベリアの永久凍土に佇む鏑木って、想像するとちょっと面白いんだけど。マンモス発見しちゃったりして。うぷぷっ。
「でも熱もないしすぐに良くなるよ。雅哉が出てきたら吉祥院さんもよろしくね」
「…ふふ?」
なにがよろしくなのかわからないので、笑ってごまかした。