「金剛戦はドワーフばかりみたいだ」 朝。観戦席で、シルビアが思い出したように言う。「そうなの?」「歴代金剛も、ゴロワズ現金剛も、ドミンゴ殿も、エコの初戦の相手ジダン殿も、皆ドワーフだ」「5人中3人がドワーフか」「加えて獣人のエコも人間のロックンチェア殿も、今季が初参加。それまでは何十年間もドワーフしかいなかったらしい」 熱いなぁ。 しかし、なるほど。確かに合理的ではある。「ドワーフはHPとVITとSTRが上がりやすい種族だ。そもそものステータス成長性が盾術向きだな」「やはりか。では獣人と人間はどうなのだ?」「どっちも成長タイプによるとしか言えん。ただ、成長タイプが合わなければ止めておいた方がいいかな。ドワーフの場合は成長タイプが合っていなくてもできなくはない、というだけの話だ」「凄いなドワーフ。では、エコはどうなのだ?」「エコは明らかに筋肉僧侶だから、バリバリ向いてる。な?」「……ほ?」 聞いてなかったみたいだ。 俺は「何でもない」と言って、エコを観戦に集中させる。 彼女が見ているのは、金剛戦挑戦者決定トーナメント準決勝。ドミンゴ対ロックンチェアの試合。 ドワーフ対人間の試合が、今まさに始まろうとしていた。「――始め!」 審判の号令。 直後、盾と盾がぶつかり合う。「おおっ、激しいな!」 シルビアは興奮している。確かに、金剛戦は派手になりやすい。 受けるとすれば、角・香・歩で耐えるか受け流すか、金・桂で弾くか、銀でパリィか。 攻めるとすれば、銀の反撃効果か、飛車の突進か、龍馬による貫通か、龍王による大衝撃か。 いずれにしても“ぶつかる”場面が多いのだ。 しかし。「……あいつ、結構やるなぁ」 傍から見ていて気が付いた。ロックンチェアという人間の方、かなりできる。 中肉中背これといった特徴のない30代後半ほどの短い黒髪の男は、小型の盾、恐らくミスリルバックラーで見事に立ち回っていた。 鋭い。見るからにスキルの出し方が違う。ありゃムラッティと同格か、それ以上。“定跡”持ちだな。 激しくぶつかり合ったのは開幕のみ。序盤中盤を通り越し終盤へと至ると、急に静かになる。 試合が一方的になってきた証拠だ。 ドワーフの髭面の男ドミンゴは手も足も出ていない。後は、ロックンチェアがサクッと寄せ切るのみだろう。「そこまで! 勝者、ロックンチェア!」 試合開始から10分ほどで、早くも判決が下る。「人間が勝ったけど」「うむ、予想外だな。これは歴史的に見ても大きな一勝だろう」初のドワーフ以外の金剛誕生、その第一歩。 有り得なくはないな。あの男は、他と比べて頭一つ抜けて強い。「エコ。決勝戦で全て出し切れ。今のあいつ、かなり手ごわいぞ、多分」「わかった!」 厳しめの顔をしてそう伝えると、エコは朗らかに笑って頷いた。 相変わらず何を考えているか分からない。ただまあ、本人は楽しそうだから、それでいいか。「…………エコ?」 ――不意に。俺たちの背後から、声がかかった。 振り向くと、そこには。 どこかエコによく似ている、猫獣人の男の姿。「……おとーさん……」 エコの顔から、俄かに笑みが消えた。 お父さん……? 沈黙が流れる。「魔術学校はどうした。何故こんな場所にいる?」「もしかして、エコの父親か?」「……そうだが。君は誰だ?」 隣で「嘘ぉ!?」というリアクションをするシルビア。「昨日で一閃座と叡将の二冠になったセカンド・ファーステストだ。そちらは?」「そ、そうだったか。何分、今朝到着したもので、事情を知らずすまない。自分はショウ・リーフレット。そこなエコの父である」