「えっと、今日の予定は、午前中にマスターの進捗を、チェック。午後に第二王子のところへ、挨拶に行く。オッケー?」「おk」 翌朝。朝食の前に、ウィンフィルドから一日の予定を伝えられる。 たった一日ですっかり秘書の位置を手に入れてご機嫌のウィンフィルドだが、一方で今まで秘書だったユカリは無言で恨めしそうにこちらを見ている。怖いから何とかしてほしい。お前のマスターだろ。「ちゃんと、話し合ったよ」 エスパーはやめろや心臓に悪い……それにちゃんと話し合ってあの様子ならもう殴り合うしかないじゃん。見ろよあれ。うらみ魔太郎かよ。「……ん、あれ? シルビアとエコはどうした?」 そこでふと気付く。いつまで経っても朝食の席に二人が現れないのだ。「二人には任務を、言い渡した、のだ」「のだ……って、何の任務?」「とある組織に、コンタクトを取ってほしい、的な」「的な……って、何の組織?」「んー。まあ、セカンドさんは、知らなくていい、かな。というか、知らない方が、いいかも」「何それめっちゃ気になる」 組織? ギルドとかか? にしても何故?「始まるよ。戦争が」 ウィンフィルドは俺の目を真正面から見据えて、微笑みながらそう言った。 ……ゲーム、ねぇ。こいつにとっちゃ、きっとその言葉通りの意味なんだろう。だが駒にとっちゃ、きっと違う意味だ。「俺を使うんだ。圧勝しないと許さないから」「もっちろん!」 心底嬉しそうに頷く。約半日ぶりに見る、満面の笑みだった。「ご主人様。こちらが4ヶ月の成果になります」「どれどれ」 朝食後。ユカリに見せてもらったのは、様々な効果が付与されたアイテム。そう、ユカリはこの4ヶ月間“付与”に挑戦していた。 【鍛冶】スキルである《作製》と《解体》、そして《付与魔術》の3つを高段で揃えて、初めて手を出していい修羅の道。それが付与である。「こりゃまた……すごいな」「…………」 つい感嘆の声をあげてしまう。ユカリは無言で無表情のままぺこりと頭を下げたが、その尖ったエルフ耳は「ドヤァ!」という風に屹立していた。自身の成果が誇らしいのだろう。 そりゃ、そうだ。付与というのは、わりと辛抱強い(当社比)俺でさえ避けて通りたくなるくらいの面倒極まりない分野である。 具体的に説明しよう。付与というのは基本的に「付与→解体→作製→付与」の繰り返しである。《付与魔術》は特定のアイテムに“ランダム”で何らかの効果を付与するスキル。すなわち“お目当て”の効果が付与されるまではずっと“失敗”が続くということ。当然、効果を付与できずに失敗することもある。否、その方が多い。そして付与に失敗した場合、もしくはお目当てが来なかった場合、その装備を《解体》して素材に戻し、その素材を使ってまた《作製》し、そこへ《付与魔術》をかけ、失敗し、解体、作製、付与、失敗、解体……とこのように延々と続けていく必要があるのだ。 もちろん、《解体》によって得られる素材は完全ではない。ゆえに《作製》のため素材を買い足す必要があり、失敗すればするほど素材費はかかり続ける。 今回はシルビアとエコがリンプトファートダンジョンから持ってきた素材のみを使って試しに付与をしてみろと指示を出していたため、素材費はかかっていない。その代わり出来上がる付与装備は乙等級のもの。つまりはローリスクローリターン。甲等級の素材でやってみたらと考えると、その厳しさが窺い知れるだろう。 まあ、何が言いたいかというとだ、俺は端からあまり期待していなかったのである。だが……流石は成長タイプ「鍛冶師」というべきか、見事に予想以上の仕事をこなしてくれた。 ユカリが4ヶ月の成果と誇るアイテムは3つあった。 まず1つは『穴熊 岩甲之靴』という足装備。リンプトファートのボス岩石亀から取れる素材から作製した岩甲シリーズの靴である。このアイテム名の前にある“穴熊”というのが付与された効果を表す。効果は「着用者のVITが150%」という単純ながら強力なもの。防御系の付与では最上級となる。 次に『穴熊 岩甲之鎧』。これまた穴熊装備である。穴熊の付与された防具は、盾役に実に適している。つまりはエコにぴったりの装備ということになる。