当人から聞いた、ということは黙っておいた。 俺とアカネコは吉祥流の道場へと歩きながら言葉を交わす。「どういう流派なんだ?」「一子相伝。島内でも他に類を見ない抜刀術家系……否、例外があったか」「例外?」「弥勒流。決して表舞台には現れぬ、これもまた一子相伝の流派。現在のミロク様は、確か二十代目か」「世襲制か……って二十代目ぇ!?」「一千年続く、島内にて最も歴史ある流派だ」 ハンパねぇなおい。「ゆえに、島内の流派は全てミロク様に名付けていただいている」「最初は弥勒流だけだったんだな」「然様。次に兜跋流ができ、吉祥流、南極流、大黒流と増え、日子流が加わり、南極流が樹老流と天南流となり、弁才流ができた」「へぇー」「つまり、これから訪れる吉祥流は、島内にて三番目に歴史ある流派と言えよう」「強そうだな?」「……否。先代家元スミレ様はお強かったが、現家元アザミ様は……」 アカネコが言葉を濁したところで、吉祥流の道場に到着した。 確かに風情ある建物だ。しかし……これまでの道場のような活気は、あまり感じない。「失礼いたす! 兜跋流アカネコ、挨拶に参った!」 例によってアカネコが口上を述べると、建物の奥からドタバタと足音が聞こえてきた。 そして。「――いや~ん! アカネコちゃん何その恰好!? 可愛い可愛い可愛い~っっ!!」 突如現れたグラマラスな美人が、アカネコをぎゅっと抱擁する。 二十代後半くらいの、ゆるふわウェーブの黒髪が綺麗な美女だ。「ア、アザミ様、お戯れをっ」「まっ、相変わらず他人行儀! 昔のように姉様と呼ぶの! いーい?」「し、しかしアザミ様は吉祥流家元で」「細かいことは気にしない! アザミ姉様よ。ほら、言って?」「……アザミ姉様」「いや~ん可愛い!!」 何を見せられているんだろうか俺は。 ぼんやり眺めていると、アザミと呼ばれた女は俺に気付いたようで、視線をこちらに向けてハッとした顔を見せた。「あ、あら、これはこれは……私ったら、はしたないところを……」 オホホと笑いながら、アカネコから離れる。 アカネコは「はぁ」と疲れたような表情で溜め息をつくと、俺の隣に並んだ。「アザミ姉様。こちらはセカンドという旅の者です。島の紹介をして回っております」「どーも」「島の紹介……? え、それって、いいのかしら?」「よくはありませぬが……あの、少々、訳がありまして」「訳? 訳でよくなるものだったかしら……?」 ずいっと顔をこちらに寄せて、アザミは首を捻る。 ほわほわした感じに見えて、意外と厳しい人なのだろうか。「……まあ、美青年ならなんでもいいわね!」 違った。 どうぞよろしく~、と笑顔で握手をせがんでくる。 俺は「テキトーな人だな」と思いながらアザミの手を握って……不意に気付いた。 ――肉刺だ。 彼女の手のひらは、女性とは思えないほどにゴツゴツとしていた。 ポーションで回復しないのか? 否、安いポーションを使えば傷が完全に回復しないことが、今まで多々あった。安物を使い続けていれば肉刺ができても不思議ではない。もしくは、毎日、毎朝、肉刺ができるほど抜刀術の練習をしているのか……。「さ、入って入って! 今お茶を淹れるわね~」