白髪の男の眼前に、漆黒の闇が広がる。 すると、男は満足気な表情を浮かべ、ホッと息を漏らした。 ――――直後、「――――ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?!?」 雄叫びの如く大声でストアルームの中から降って来る男。「あ」「え?」 ぶつかり合う頭と頭。 そう、ストアルームの中から、男の頭に向かって別の頭が出てきたのだ。「くぉおおおおおおっ!? 痛いっ!? 痛いぞっ!?」 男はベッドの上で悶えながらその鈍痛を訴えた。「いてぇえええええっ!? いてぇよぉおおおおおっ!?」 ストアルームから出て来た男もまた、鈍痛を訴えていた。それはもう、子供のように。 男は痛みを与えた張本人を見、もう一人の男は謝罪を述べようと白髪の男を見た。 ――――瞬間、時は止まる。 頭の痛みなどどこかに消えたかのように、二人の時はピタリと止まったのだ。「レ、レオール仮面! いや! アズリーかっ!?」 白髪の男は、アズリーを指差して言った。 そして、アズリーも白髪の男を指差して言ったのだ。「も、もしかして…………サガンっ?」 白髪の男の名はサガン。 戦魔国初代の戦魔帝――サガンだった。 サガンは首を縦にぶんぶんと振り、アズリーの問いを肯定する。「うぉおおおっ! 懐かしいっ! というか成功したっ!!」 そう、アズリーが選んだのはストアルーム内での時空転移魔法。確かに、アズリーのストアルームを知る者はアズリー以外にいない。しかし、アズリーのストアルームを見た者で、その者が類希な才能の持ち主であれば話は別だ。たとえ時間が掛かろうとも再現出来る。 何故、アズリーはこの回答に行き着く事が出来たのか。アズリーは、サガンの元使い魔であるツァルからヒントをもらっていたのだ。 それは、アズリーが現代に戻り、エッドの猪共のリーダーであるイーガルから、ポルコ・アダムスの伝言と共に、ガルム・キサラギの伝言を受け取った。その直後に決まった出来事。ドリニウム鋼を手に入れるため、再度「帰らずの迷宮」に潜るため、アズリーたちはレジアータに向かった。その夜、アズリーはツァルに確かに聞いたのだ。【【ところでアズリー殿?】】【何でしょう?】【【晩年、サガンが手こずっていた魔法があった。非常に難解な空間発生の発動、空間維持の魔法だった。もしかしてアレはアズリー殿が教えた魔法かな?】】【え? いや、そんな魔法は教えてないはずです。下手したら歴史が変わってしまうかもしれませんし。うーん、もしかしたらサガンのオリジナル魔法かもしれませんね】【【そうか、それを見た後、私は契約を解除されてしまったからな。遂に完成を見る事は叶わなかった】】【ヴァース様が戦魔帝に即いたのって最近の事でしたよね? サガンがギリギリまで帝位を守ったとか?】【【ヴァース様の正確な戴冠日は、戦魔暦七十九年の一月一日だ。そのひと月後、サガンは息を引き取った】】 ――戦魔暦七十九年一月一日。 それが、アズリーにとって最大のヒントだった。 この日に、サガンがストアルームを完成させるとは限らない。これよりもっと前だったかもしれないし、もっと後だったかもしれない。 しかし、アズリーはその日に賭けるしかなかった。何故なら、ストアルームの利便性は、アズリーが身を以て知っているから。 ストアルームを覚えたのであれば、サガンが多用して開くと、アズリーは理解し、確信し、ヴァースの戴冠日を狙ったのだ。