こ、こんにちは」
その日、初めて蒼紫は文人(あやと)に、会った。余り外に出ないからだろうか、同い年位の子等に比べると背は低く、色白であった。
「これから、君の担当になる、四乃森だ。よろしく頼む」
四乃森夫妻の住む、村の名主の佐々木太郎右衛門の孫で、三歳頃に罹った高熱が原因で、元々が弱かった片脚に麻痺が残った。恵が戻ってからは、少し遠いが治療に通っている。今年で十一歳。
麻痺部分の筋肉の凝りをほぐし、短時間、診療所の周囲を歩行し、慣れさせる。単調だが根気のいる治療であった。松葉杖を壁に立て掛け、文人の体を支える。抱き上げると軽かった。仰向けにし、丁寧に脚全体を撫で擦ってゆく。
「先生、あの…恵先生は……?」
「ああ、まだ子が生まれたばかりで、出ていないんだが」
「そう…ですか」
淋しげな目をした。それから週に三度、文人は家人に付き添われてやって来た。
今日は母、さわが傍にいた。品の良いおっとりとした風貌の婦人だった。
特に問題無く、ひと月余りが過ぎた頃、文人の訪れが止んだ。
「今日も来ていない様だ」
「どうしたのかしら……」
蒼之介の頭を撫でながら、恵は窓の外を見つめた。