陽は暖かいけれど、車の窓を開けるとやや肌寒い。 週末のお昼前という時間だ。もう少し走ると渋滞が待っているだろう。 助手席に座るエルフさんは、秋の服装をお気に召したらしく、爪先を揺らしながら後部座席へ瞳を向ける。そこには珍しいゲストがおり、話したくて仕方の無い様子だ。「ねえ薫子さん、屋敷では私たちより先に眠りについたでしょう? やっぱり同じベッドで目覚めたのかしら?」 ちらちらと魔導竜、そしてエルフを見ていた彼女は、話を振られて少し驚いた顔をする。幻想世界の彼女らと同じ車内におり、緊張していたのかもしれない。 確かに竜人やエルフたちから囲まれる機会なんて、あまり無いだろうからね。「あ、いえ、うちのベッドで目覚めました。不思議なこともあるものだなと、さっきまで徹さんと話していたんです」 あ、そういえば僕らの家の鍵は閉じられていたか。 すると行きは僕のベッドで、帰りは一条夫妻のベッドで目覚めるのか。それは確かに不思議な話だ。 もちろん僕としてはそのほうが助かる。ベッドで混雑するなんて嫌だし、朝はのんびりと眠気を楽しみたい。 案外とそれが理由なのだろうか。僕らが起きやすいよう場所を空けてくれている? 夢の世界への移動というのは、誰かに管理をされていると感じる時もある。もしもその意思に触れる時があれば、どのような意味があるのか尋ねてみたい所だ。 ちなみに彼女ら一条夫妻にも、僕と同じようなルールがあるのを確認している。先ほどの「眠れば元の世界へ帰れる」だったり「痛みをほとんど感じない」というものもまったく同じ。あまり試したくないけれど、死亡したケースも同様だろう。 ただし夢の世界へ行くには僕という存在が必要なので、二度寝して戻っては来れない。 それを聞いていたマリーは、きょとんと不思議そうな顔をした。「あら、そういえば私がお昼寝をしても向こうの世界へ戻れないわね。どういう理屈なのかしら」「この世界から見ると、わしらの世界は『夢』に当てはまるのかもしれぬ。しかし北瀬は驚くほど眠そうな顔じゃからな。あれでは日本で死んでも『よく寝たー』とか言って目覚めかねんぞ」 あれぇ、そこまで僕は眠そうな顔をしているの? バックミラーから指差しているウリドラはともかく、くすりと笑った薫子さんを僕は決して見逃さないよ? その彼女は大のゲーム好きらしく、またファンタジー世界へいつでも行けると分かって爛々とした瞳を向けてきた。「技能って好きな物を選べるのですか? 私、魔法使いに昔から憧れているんです!」「ほう、それは良かったのう。何を隠そう、わしとマリーは魔術、魔導に長けておる。しかし恐らく薫子の特性としてはエルフに近しいと思うがな」