ようやく納得してくれたのか、シルビアは晴れやかな表情をしていた。「ちなみに、その凝集された技術の塊をたった一人で超越し続けないと世界一位にはなれない。そして俺は、誰がなんと言おうと世界一位だ」「は、ははは」 注釈しておいてやると、引き攣った顔で呆れたように笑われる。「なんだよ」「いや、な。セカンド殿と出会ったばかりの頃は、ただ単に凄いなあと感心していたものだが……自分がその世界に一歩でも足を踏み入れた途端、こう言ってしまっては失礼かもしれないが、セカンド殿をとても怖ろしいと感じることがある」「それ、わかる。せかんど、たまにこわい」 横で話を聞いていたエコまでもがシルビアに加勢した。 更にその横では、ラズベリーベルが「うんうん」と深く頷いている。「お前もかラズ……」 ちょっとショック。「うち、センパイと試合する時は今でも怖いで。心臓を真ん中に、背中から全身が震えるんや。なんで毎度毎度そんなんなってまうか、理由もちゃーんとわかっとるのにな」「何? 理由があるのか。私にも教えてくれ」「簡単やで。センパイの前で、下手な真似できへんやんか。緊張や、緊張」「……なるほど。セカンド殿の前で、無様は晒せない……か」「おっかしいよなぁホンマ。センパイやない相手と試合する時もな、センパイが見とるって意識した途端、手が震えるんやで」 ラズが静かに右手を前に出す。確かに、その白魚のように美しい指先は小さく震えていた。 そうか、次の試合は――「ほな、そろそろ行ってくるわ」 ――ラズベリーベル対ガラム。 彼女もまた、一閃座戦出場者。 出場できているということは、彼女のことだ、恐らくカラメリア治療薬の開発は既に成功している。 しかしまだ俺に直接的な報告はない。つまりは最終確認の段階、臨床試験中か何かで、彼女が時間を割かなければならない状況ではないのだろう。 流石は最高128位の元ランカーと言うべきか、短い時間でこうもすんなりと、どちらも間に合わせてきやがった。 特筆すべきは、彼女は俺より何年か遅れてプレイを始めたはずなのに、最終的に世界ランキング128位にまで順位を上げてきていたということ。 加えて当時は大学にも通っていたと聞く。その要領の良さ、まさしく尋常ではない。 白と赤の長髪を風になびかせて歩く超絶美形の背中を見送りながら、俺は期待に胸を躍らせた。 彼女が、当時の彼女よりも成長できているのなら。 その剣が俺に届く日も、そう遠くはないだろうから。