だから近いって……。 俺はそう思いながらも、咲姫に向けて怪訝けげんな表情をする。「お前が百点だって事はわかったけど、なんで俺の負けなんだ? 引き分けだろ?」「ううん、違うよ? 私は海君が勝つルールとして何て言ったかな?」「え? それは俺がどれか一つでもお前の点数に勝・て・た・ら・――ああ!」 俺は咲姫の言葉に、この前咲姫が言った俺の勝ちが決まる条件を口にしながら、何故咲姫が勝ち誇っているのか気付いた。「えへへ、気づいた? 海君は今回私の点数を上回れなかったので、海君の負けなのです!」 咲姫はまるで『えっへん』とでも言う様に、腰に両手をあて、無い胸をはった。「……今、失礼な事考えなかった?」「き、気のせいだ!」 俺が咲姫の胸が無い事を考えた瞬間、咲姫はそれを敏感に感じ取り、雪女みたいな冷たい眼を向けてきた。 何故こんな時だけ鋭いんだよ……。 てか、俺とした事がこんなミスをするなんて……。 今回の勝負を息抜き程度しか考えてなかったし、アリアとの勝負に気が行ってたから、咲姫が言ったルールなんてそんなに気にしなかった。 これじゃあ、咲姫にどんな理不尽な要求をされるかわかったものじゃない。 ……いや、理不尽な要求ならまだしも、前みたいな背もたれになれみたい事を言われたら、非常にまずい……。 なんせ、俺が理性を保てる自信がないからだ。「ねぇねぇお兄ちゃん」 俺が咲姫の要求をどう凌しのぐか考えようとしていると、俺達のやり取りをジーっと見ていた桜ちゃんが俺に声を掛けてきた。「どうかしたのかな、桜ちゃん?」 俺はとりあえず咲姫を放っておいて、桜ちゃんの方を見る。 俺にとっては、可愛い妹が何よりも第一優先なのだ。「桜ね、学年で三位だったの!」 桜ちゃんはニコニコ笑顔で、俺にそう言ってきた。「おぉ――! 凄いじゃん! よく頑張ったね!」 俺が桜ちゃんを褒めると、桜ちゃんはニコニコ笑顔のまま俺の顔をジーっと見つめていた。 ……これは、何かご褒美が欲しいのかな? うん、桜ちゃんにはいつも家事でお世話になってるし、何か買ってあげよう。「桜ちゃん、ご褒美に何か買ってあげるよ。何が欲しいかな?」 俺が笑顔でそう聞くと、桜ちゃんは首を横に振った。「何も買ってくれなくていいよ! その代わり――」 桜ちゃんは途中で言葉を切り、俺に頭を差し出してきた。 えと……これは頭を撫でて欲しいという事か? え、本当に撫でていいの? そりゃあ俺も桜ちゃんにナデナデをしてみたいとはずっと思ってたけど……!「だめ……?」 俺が躊躇ちゅうちょしていると、桜ちゃんが悲しそうな顔をして俺の顔を見上げ来た。「ううん、いいよ! 本当によく頑張ったね!」 俺はそう言って桜ちゃんの頭を撫でる。「えへへ……」 頭を撫でると、桜ちゃんは嬉しそうな声を漏らした。 その表情はくすぐったそうにしながらも、幸せそうだ。 やばい……凄くかわいい……! しかも、桜ちゃんの髪凄く触り心地良い! このままずっと撫でていたいな……。 俺はそんな事を考えながら桜ちゃんの頭を撫で続ける。 すると――「ずるい……。いつもいつも桜ばかり贔屓ひいきして……!」 何を呟いたのかは聞き取れなかったが、凄い寒気がして振り向くと、咲姫が凄い目をして俺の事を見ていた。 待って待って! なんでこいつこんな顔してるの!? 俺、まるで親の仇かたきみたいな目で見られてるんだけど!?