「……見た」何をだ。やっと言葉を発したかと思えば意味が分からない。冨岡翻訳機である竈門に目を向けるも、首を捻られた。「迷ったが………」だから何にだよ。なかなか容量を得ない冨岡に苛立ちつつも、辛抱強く次の言葉を待つ。「…………あがつ」ドンっと部屋が揺れた。それが、自分が冨岡をとてつもない勢いで壁に叩きつけた音だということを直後に悟った。相手は最後まで言い切っていない。それでも、何を言おうとしているのか分かってしまった。「…落ち着け。手を離せ」自分の手首を掴み、強く抵抗の姿勢を示す。そのことに余計に苛立ちが募る。「…うるせぇ。いいから答えろ。今、なんつった?」「…………」まさに一色触発といった空気が流れる。そんななか動いたのは煉獄で、自分の背後に回り込んだかと思うとその腕で自分を羽交い絞めにしてきた。「落ち着け、宇髄。そんな状態では、冨岡だって話そうに話せんだろう」「……ッチ」煉獄の言うことも分からんでもない。渋々手を離し、無言で座り直す。「義勇さん…まさか……」恐る恐るといった竈門の問いかけに深く頷く冨岡。「あぁ。我妻を見た」その簡潔な報告に皆が息をのむ。やっとだ。やっと手掛かりが見つかった。あれ以来、どこを探しても見つからなかった、あいつの痕跡。逃がさない…絶対に……。そのためには、この男から詳しい話を聞きださなければならない。嘴平が俺の顔を見て、びくりと肩を震わせた。