しかし長いあいだ、僕は彼女と過ごしている。ならば無地の紙ではなく、そこには文字が刻まれているはずだ。僕らにもまた物語があるのだから。 彼女と過ごした宝物のような時間を思い返し、すうと息を吸って……そして僕には魔法がかけられた。「ーー誰よりも。何よりも。どんな時でも。マリアーベル、あなたを幸せにします」 穏やかで、自分でもあまり聞いたことのない声がふたりきりの空間に響く。 慌てたり急いだりする必要はない。いつものようにゆったりと落ち着いて、そしてほんの少しだけ眠そうでいれば良い。そうしたら多分、少女は安心してくれるから。「僕は人間族です。あなたにとっては短い半生しか一緒にいられません。ですがその後もずっと幸せに過ごせるくらい、僕はたくさんの愛を注ぎます」 ごく普通のサラリーマンからの告白に、薄紫色の瞳はゆっくりと見開かれてゆく。 その小さな彼女の手に、そっと指を重ねる。 彼女の表情から笑みは消えてゆき、ほんの少しだけこわばり、その小さな指で握り返してくる。いま伝えているこれは、僕からのプロポーズと気づいたのだ。「考えが合わなくて喧嘩できる日が楽しみです。仲直りをして、埋め合わせを考える時間が楽しみです」 少しだけ安心をした。言葉はすらすら口から出てくるし、どれもこれも僕の伝えたかった本心だ。もしかしたら本当に魔法がかかったのではと思うくらいに。 そっと反対側の手も握ると、マリアーベルの瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちていた。いつもの僕なら心配をするのに、このときはまるでダイヤモンドみたいに透明で、綺麗だなと見惚れるほどだった。