「ふ、ふ、わしの浮き袋はどこじゃ?」「えっ、これひとつしか無いよ。だってほら、ウリドラは背が高いから必要無いと思って」 笑顔でドスンと脇腹にパンチをいただきました。 しかしこれが地味に強烈で、地面に片ひざを突いてしまうほどだった。そのくせマリーは気にもせずイルカちゃんと遊んでいるのだから、この娘もウリドラに慣れてきたなぁーと痛感させられる。 しかもなんだ、この肝臓を打ち抜くようなパンチは。威力はともかく、当て場所が的確すぎるぞ。「仕方ないのう、交代して遊ぶしか無いようじゃな」「ええっ、嫌よ。だってこれは私のイルカちゃんなの。あっ、ちょっと、やあだ!」 ぎゅむりとビニールの伸びる音がするけれど……ああー、イルカちゃんが不機嫌そうな人相に変わっちゃった。がんばれイルカちゃん、腹を押さえて動けない僕より長生きするんだぞ。 まあ、そんなこんなで賑やかにプールへ向かうことになった。「あっつーーい! んーー、日本の夏って感じ!」 戸をくぐり、外へ出ると強い日差しが待っている。その代わりに風があるので湿度の面では過ごしやすい。 館内の施設も年中通して遊べるのは利点だけど、どうせ夏ならお日様の下で楽しんだほうが良いだろう。 いやしかし、懐かしいなあー、この感じは。 ざらざらとした地面を素足で歩くと、妙にムズ痒い思いをさせられる。 どことなく漂う塩素の香り、それと水溜りを踏むとお風呂みたいに熱いのも久方ぶりに味わうものだ。 遠くから響くセミの声、それに入道雲のある青空は、いかにもな夏休み光景だね。 とはいえ幻想世界の住人らにとっては、僕よりもよっぽど楽しめているらしい。 浮き袋をかついだウリドラへ少女はしがみつき、足の裏がくすぐったいとか、人がたくさん遊んでる、とか楽しそうに話している。 そして大量の水が流れている青色のプールは、恐らく幻想世界には無い光景だろう。きらきらと好奇心たっぷりの瞳をこちらへ向けてきた。