やってきましたD席。「せかんど! いぶ、すごい! すごくない!?」 やってくるなりエコに抱きつかれ、よくわからないことを言われる。 いぶが凄い? ああ、イヴのことか。「イヴ」「いぶ!」「イヴ」「いう!」 駄目そうだ。「何が凄いんだ?」「あやとり!」「あやとりか」 ちらり、とイヴの方を見やる。 イヴはささっと何やら手を動かして……「え、凄ォ!?」 凄かった。誰がどう見ても蜘蛛だ。目や関節など細部まで表現されている。「…………」 イヴは「フンス」と鼻息一つ、無言のドヤ顔であった。「給料を上げてやった方がよいぞ……あの使用人、一時間半前からせがまれるままに延々とあやとりだ」「ミーが見ていた限りでは、ディナーの間を除いて、エンドレスあやとりでした」「あの胆力、自分も見習いたいでありますな」 同じD席にいたカンベエとマムシとダビドフが口々にイヴを褒める。 イヴはほんのりと頬を赤くしていた。「セカンド様、こちらのお席へ」「ん」 エコがイヴのもとへと戻った頃合で、キュベロが現れ俺を席へと案内し、酒の瓶とコップを流れるように俺へと手渡した。「阿吽の呼吸だな」 唐突にカンベエが言う。「何が?」「貴様とキュベロ殿だ」 俺とキュベロか。まあ、そこそこ長いからなあ。 ちらりと横を見ると、キュベロは少し照れたような表情で一礼した。「しかし、ミスター・キュベロの胆力もまた凄まじい。かれこれ一時間半、給仕に徹しておられます」「実に根性のある使用人ばかりであります」 マムシとダビドフは、キュベロの仕事ぶりが気に入ったようで、微笑みながら褒め言葉を口にする。 うちの使用人が褒められるのは、嬉しい。ただ、それじゃあ足りないんだよなあ。「キュベロは、元は義賊の若頭だった」「ぎ、義賊の!?」「イヴは、親に売られた奴隷だった」「……奴隷、でありますか」 そんな二人が、今やこうなった。いや、こうなれた。それを知ってほしい。 努力が実を結んだなんていう言葉で片付けていい話じゃない。どんだけ頑張ったらこうなれるのか、俺には想像すらつかない。「凄いやつらなんだ。俺の自慢の仲間だ。そこんとこ、よろしく」 軽く酒を注ぎ合って、景品の小スキルの注文を聞いてから、俺は席を立つ。 キュベロを見ると、目頭を押さえていた。思わず笑ってしまう。相変わらず、涙腺の弱いやつだ。