「未明の雷」
仕事を終えて駐車場に向かう途中夜空を見上げたら、流れる雲の隙間から真ん丸の月が顔を出した。昼間の土砂降りを忘れさせる輝きに、しばし足を止めた。
▼明け方の雷に眠りを妨げられた一週間だった。青白い稲光、地面を揺さぶるような雷鳴、屋根をたたく土砂降りの雨。白浜町や田辺市では突風の被害が相次ぎ、民家の屋根瓦が飛んだり、校庭の木が折れたりした。
▼紀の国わかやま国体の開会が3週間後に迫ったこともあり、新聞社の仕事も慌ただしくなってきた。せわしなさから季節の移ろいについ鈍感になっていたのだろう。気が付けば、辺りを飛び回っていたツバメは南に渡り、黄金色の稲穂の上を舞うのはトンボの群れに代わった。
▼こうべを垂れた稲穂は収穫の時を迎え、田んぼの中をコンバインが行き来する。稲刈りが終わると、あぜ道にはヒガンバナがにょきにょきと茎を伸ばし、ちょうど彼岸のころに真っ赤な花を咲かせるのだろう。
▼ことしの中秋の名月は27日。そのころにはハギやススキの穂先もにぎやかになることだろう。夜も涼しくなり、ここ数日は明け方の冷え込みで目が覚める。こんなところにも秋が来ていることを実感する。
▼雷が鳴った朝に話を戻すと、その日もいつものようにポストに朝刊が届いていた。配達の時間帯は雷雨が一番激しかったころである。雨よけの薄いナイロン袋から新聞を取り出し、配達の方の苦労に感謝した。(長)