シャーリーまで口を揃えて動かすものだから、僕の頬はもう崩壊だ。なんだろうね、まるで3姉妹のようで、ぷはっ!と吹き出してしまったよ。 エルフと竜、それに元階層主というバラバラな組み合わせなのに不思議なものだ。 バタン、とドアを閉じると、僕でさえ「おっ」と声が漏れてしまう。 駐車場のすぐ裏手、フェンスに向かって身体は勝手に歩き出す。その向こうには、本格的な夏を思わせる空、そして朝日に輝く視界いっぱいの海が広がっていた。 さああ、さああ、という波の音は、足元の岩場にあたり真っ白い泡を立てる。少し風があるようで、薄手のワンピースをマリーは押さえ、そして反対の手では髪を押さえて立ち尽くす。 たぶんいま、彼女はとても豊かな時を過ごしている。 エルフとして、魔術師として、そして精霊使いとして生きてきたけれど、この世界はちょっとした奇跡がなければ見られない。 まっすぐに広がる水平線を前に、振り返る彼女の瞳は宝石のような輝きをしていた。「海を見たときはね、馬鹿野郎と叫ぶのが慣わしらしいよ」「んえっ!? また私を騙そうとして。そんなバカな風習があるものですか」 いや、これはさすがにネタが古すぎたか。 なんだろうね、あの風習は。それとも若い子はもう知らないかな。なんて、そんな年寄りくさいことを考えていると、本当に年を気にするからやめておこう。 彼女らと並んで立ち、ぐんと身体を反らす。長時間の運転に、腰のあたりはパキパキっと良い音を立てた。 同じようにマリーも伸びをすると、「ふうー」と気持ちよさそうな息を吐く。「んんっ、清々しいっ。このフェンスが無ければ、もっと幸せになれるのに」「もちろんあるさ、伊豆の誇る名スポットがね。そこをもう少し進むとバナナワニ園が見えてくるよ」 おおーと瞳を輝かすマリーの後ろから「ばななわにえん?」とシャーリーは小首を傾げてくる。 そういえば大した説明もせずに連れてきたんだっけ。第二階層広間で眠るとき、海旅行について来るかい?と気軽に尋ねたことを思い出す。 すぐに「行く!」と憑依されたのは言うまでもない。「緑と動物に囲まれた、ほんのちょっとワイルドなところかな。ちなみにバナナは甘い果物、ワニは……火とかげに似てる?」「ふ、ふ、阿呆じゃのう。大人と子供くらい離れておる。ほれ、さっさと眺めの良い場所まで連れてゆくがよい。無論、おまんじゅうを買うてからな」 うん、渋滞に巻き込まれないよう早めに出ておいて良かったね。 おかげで休憩所に寄っていけるし、トイレも我慢しなくて済む。そういうわけで飲み物やおまんじゅうなどを買い、すぐに車へ戻ることにした。