浴衣姿の少女は透き通るような声を漏らすと、宙に淡い光が浮かぶ。小さな指先からつんつんと突つかれて、光の粒を撒きながら精霊は明るさを増してゆく。 薄暗い部屋に、妖精じみた横顔が浮かびあがる。それはどこか印象的で、少女が振り返るまで僕は見とれてしまった。 いや、実はたぶんずっと彼女に見とれているのだ。だからいつも視線は彼女の姿を追い続け、いつもより背伸びをしたくなる。 と、そのとき障子の外から誰かの足音が聞こえてきた。砂利を踏む音は止まり、落ち着いた声で話しかけられた。「夜分遅くに失礼いたします。ウリドラからの使いで参りました」 聞きなれない男性の声に、僕らは少しだけ戸惑った。とはいえ新しい従業員を雇うと聞いてもいたので、彼がそうなのかもしれない。 たんっと障子を開けると、やはり初めて見る顔の男性がそこにいた。鈴虫たちの声に包まれながら、まるでモデルのように一分の隙もなく執事服を着こなしている。「初めまして。本日から皆様のお世話をさせていただくラヴォスと申します」「あ、どうも初めまして。僕は北瀬、彼女はマリアーベルと言います」 慌ててこちらも頭を下げる。 すらりと背の高い彼は、驚くほど顔が整っていた。蛍光色の髪を揺らし、その下には黄金に近しい切れ長の瞳がある。柔和な表情をしているけれど、只者ではない雰囲気だ。 一体何者なのだろうと不思議に思い、マリーと見つめ合ってしまった。「では、どうぞこちらへ、北瀬様、マリアーベル様。お召し物はそのままで宜しいかと思います」 どうやら自己紹介よりも先に、ウリドラへの案内をしたいようだ。身を翻す彼を追い、真夜中の小道を歩き出した。 ここは僕らが寝泊まりするための離れであり、落ち着いた和風な庭に包まれて静かに過ごすことができる。