「私も行く!」 家からアネモネが走ってきた。「大丈夫なのか?」「うん!」 アネモネは楽しそうなのだが、俺と2人きりになれるチャンスを逃したプリムラはなんだか不機嫌そう。 赤露草と青露草を少量見つけたのだが、ここら辺にはもう無いのだろうか? もう少し範囲を広げた方がいいと思うのだが、あまり森の奥まで入ると魔物とエンカウントする危険性が上がるしな。 あんな牙熊みたいのが、ゴロゴロいるんじゃ、ちょっと躊躇してしまう。 だが、ミャレーの話では、大型の魔物の気配はないと言う。 かなり森の奥地まで行ったようだが、魔物が少なすぎて逆に不自然らしい。 何か原因があるのか? 薬草を見つけるために下を探していた顔を上げて左手を見れば、木々の間から湖の水面がキラキラと光って見える。「ああ、湖を渡るっていう手もあるな」 ボートか何かで湖を横断すれば対岸まで行ける。だが、この湖はかなりデカい。 シャングリ・ラを検索するとゴムボートが売っているが、2人乗りが多い。 う~ん、ショボイのは3000円ぐらいだが、しっかりした物は3万円以上するな。 安物を買って湖の真ん中で沈んだりしたら洒落にならん。水難事故ってのは結構多いんだよな。 漁師の事故も多い――船底一枚下が地獄だと知り合いの漁師も言っていたし。 船外機が取り付け可能な物は6万円とか――そこまで投資して薬草とかが欲しいわけでもないしなぁ。「ケンイチ、私はアストランティアで商売がしたいのですが」 彼女は大店の娘で、買い付けの旅行にも同行するぐらいの女性。こんな森の中の小さな家にじっとしているのは我慢出来ないだろう。 マロウさんは、彼女が結婚して家庭へ――とそんな事を願っていたようだが、そんな当たり前の人生を送る女性には見えない。「プリムラも商人の娘なんだから、当然ギルドには登録してあるんだよな」「はい」「でも、売るものがあまり無いぞ。持っていた物はダリアで殆ど売ってしまったし。何を売る?」 シャングリ・ラで追加購入はできるが、暮らしに困らない金はあるので、無理に商売して目立ちたくはない。「これから考えます……」「そうだ、この前作った絵本があるが」「絵本?」 プリムラに、エルフの森とシンデレラの絵本を見せる。