「どうしたの、ウリドラ?」 静かに周囲を見渡している彼女へと声をかける。 つられて同じように見たけれど、このあたりは川下の位置にある寂しい区画だ。もともと工房は水を汚してしまうので、市街地から離れた位置にある。当然、周囲に人はいない。「……ふむ、気にするでない。そのほうが良い結果になるじゃろう」「? どういう意味?」 問いかけには答えてくれず、代わりに彼女はシャーリーを呼び寄せる。明るい時間に半透明の姿をしているのは不思議だけど、生命を司る役割を持ったシャーリーは正確には幽霊と異なるらしい。「では、わしはシャーリーを送り届けてくる。その間に2人でゼラの家へ向かうが良い」 そう言い残し、ウリドラは黒い空間へとシャーリーを連れて行ってしまった。 先ほどの言葉は気になるけれど、エルフの少女と取り残されてしまったのだし、また戻ってから聞くとしよう。 川下にあたる位置からおだやかな坂を登れば、住宅地へとたどり着けるはずだ。そこを目指し、マリーと並んでゆっくり歩き始める。「しばらくゼラさんの所へお世話になるかもなぁ」「あら、私たちは第二層を攻略した主役なのだし、ゼラさんとドゥーラさんの婚約も認められそうなのでしょう。喜んで歓迎してくれると思えるわ」 などと、懐へしまった宝石を幾度となく撫でながらエルフの少女は答える。どうやら贈り物をとても喜んでくれているようだ。 とはいえ無償で寝床や食事を用意してもらうのは、さすがに気になるかなぁ。などと悩んでいる僕へ、マリーは夕日を背に覗きこんでくる。さらさらの髪がオレンジ色に染まり、その妖精じみた美しさへ不意に見とれてしまった。「反逆者の多くを捕まえたらしいし、きっと情報を聞き出している最中だわ。おかげでしばらく迷宮に行けないらしいけれど、私たちはグリムランドへ遊びに行くからちょうど良いわね」 とても綺麗な笑みを残し、少女は前へと歩き出す。今の光景はもしもカメラがあれば撮っておきたかったなぁ、などと馬鹿なことを思いながら後を追う。