「うわぁ……」 ダリヤはこめかみに指をやった。 魔剣の方向からまたもずれた。 これは魔剣というより、魔矢にした方がよさそうだ。 いや、これだけ速度が出るのなら、いっそ長剣でやる方がよかったか、それだと扱いが危険すぎるだろうか。 ぐるぐると必死に考えていると、ヴォルフが少年のように笑い声をあげた。「あはは、これ、すっごくいいね! 投擲技術はいるけど、距離があっても、魔物の足とか翼を狙えそうだ!」 なるほど、そういった使い方もあるのかと納得する。 魔物と距離をとって戦えるなら、少しは危険度が下がるかもしれない。 ダリヤは先ほどの思いつきを伝えることにした。「これと同じことをするなら、弓でした方がいいかもしれません」「弓で?」「ええと、鏃を硬い材質にして、これと似た感じに速度強化を入れて、ミスリル線でつなげばいいのかと。あ、でも矢を二人で同時に放つのは無理ですよね……」「どうだろう? 隊の弓騎士はかなり早く連射はできるけど……」 ヴォルフが難しい顔になった。 考えてみれば、同じ隊でも彼は先陣の赤鎧である。 魔物と距離をとるであろう弓騎士、その戦いを近くで観察することは少ないのかもしれない。 ダリヤは話題を変えることにする。「とりあえず、それはそれはとして――今回も剣に名前をつけます?」「ああ、つけたいと思う。ダリヤは何か案がある?」「『ワイヤー魔剣』『速度増強剣』とかじゃ、だめなんですよね?」「……うん、ダリヤだからね……」 完全に残念な子を見る目で見ないでほしい。 魔剣はともかく、魔導具の名付けはわかりやすさが一番だ。 『給湯器』も『防水布』も聞いてすぐわかるいい名前ではないか。 自分はヴォルフのように名前に浪漫は求めない。「浪漫を求めるヴォルフが、好きにつけていいですよ」「……やっぱりすばらしく速いから、ここは『疾風の魔剣』で!」 満足げに言う彼の足下、転がっているのは輪切りの薪である。 『疾風の魔剣』より『輪切りの魔剣』でもいい気もするが、それは言わないことにした。