推薦した私が早々に負けるのは師匠的にもメンツが立たないらしく、師匠は万全のサポートに励むようになった。戦い方のレクチャーやら、対戦相手の情報、そして相手の得意スペルに有利な対抗術式までも授けてくれた。そのおかげもあって一試合目と二試合目の相手には簡単に勝つことができた。世間では私がたまたま相手に有利なマイナースペルを得意としていて、奇跡的な勝利に過ぎないとされていたが、仕掛けを知っている私に取っては勝って当然の戦いだった。むしろ、魔導士の頂点を目指す私がこんなところで負けるわけにはいかない。だから、三試合目の対戦相手であるエスカーに手も足も出なかったのにはショックを受けた。《転送門ゲート》の対策は考えていたが、隠し持っていた奥の手《転送領域》はどうしようもなかった。あんなスペル見たことがなかったし、考えられる手を色々試してみたが、どれも空振りに終わってしまった。 結局最後は、事前に師匠にどうしようもないスペルに当たった時の対処法として与えられていた、様子見に回って後半戦に備えるという手段しか取りようがなかった。「はい、完成」 後ろから投げかけられた声に反応して、顔を上げた。 鏡の中には、10分前の私とは見違えるほどかわいい女の子がいた。「どう? 時間がなかったから、満足はいってないけど。ちょっとはかわいくなったでしょ?」「ううん。充分よ。ありがとう」 謙遜する妹に感謝の気持ちを述べた。 イザールに戻ってきた直後は喧嘩も多かったが、今ではお互い素直に話せるようになった。 七賢選抜に出ることが決まってしばらく経ったある日。 妹とその話をすることになって、ふと言われたフレーズが印象に残った。『私、お姉ちゃんのこと、尊敬してるから』 その時になって、初めて私はこのマリンが妹で良かったと思った。 マリンは器用な生き方ができて、他人から必要とされていて、私なんかよりもずっと出来た人間だ。 そんな妹から尊敬という言葉が聞けて嬉しかったと同時に、私も妹のことを尊敬していたということに気がついた。 周囲の人と上手くやっていける社交性や、かつて仲違いしていた姉を素直に認めて、それを口にできる彼女の人間性を尊敬していた。「せっかくかわいくしてあげたんだから、勝ってよね」「わかってるから」 そんな尊敬する妹から応援されているとあらば、負けないわけにはいかない。 ――大丈夫。やれることはやってきた。 前半戦で負けてからの10日間、私は寝る間も惜しんでエスカーの対策をしてきた。 師匠と出会ってからの一年は、誰よりも魔法に真剣に向き合ってきた。 確かに一時は魔法の道から逃げた私だけど。今は誰よりも努力してきた自信があった。だから、大丈夫。ちゃんと自信を持っていいんだ。 いつもの自信なさから来る大口じゃなくて、心の底からの本心で私は言った。「お姉ちゃんに任せなさい。サクッと勝ってくるから」