「ねえ、ミーヤ。今日は依頼を受けるのをやめようと思うんだ」 いつものように、ノートとロズリアちゃんの手伝いに行くと、ノートからそんなことを切り出された。「どうしたの急に?」「やっぱり昔のことについて、もう一度話し合いたいと思って」 わたしは別に昔のことについてなんて、話し合いたくない。 仲直りがしたいわけでもない。 ただ、ノートが過去のわたしを捨てたことについて、後悔して欲しいだけだ。「だからいいって。わたし、気にしてないよ」 もちろんそんな本心を言えるわけもない。 笑って受け流すことにする。 しかし、ノートはこちらの配慮を無視して、さらに切り込んできた。「噓でしょ、それ?」「そんなことないよ」「だったら、なんで俺の依頼の手伝いなんかしているの?」 一瞬、ノートにわたしの思惑が見破られたのかと思った。 だけど、冷静に考えてみて、そんなはずがないと気づく。 ノートは鈍い人間だ。 十五年間一緒にいて、わたしの本性に気づかないくらい。 わたしの胸の中に現在進行形で渦巻いている、どす黒い感情に気づけるはずもない。「それはノートが困っていそうだったから……」「『光り輝く剣レイダーズ』の活動をサボってまで?」「それは……」 そこまでノートにバレているとは思わなかった。 鈍いノートのことだ。自分で気づけるはずもない。 エルドリッヒあたりが告げ口したのだろう。「バレちゃったかー。ノートにも早くランク上がって欲しかったから、つい休んじゃったんだよね」「約束を破って、酷いことを言った幼馴染に普通そこまでする?」 今日のノートはなかなか引き下がってはくれないみたいだ。 面倒に思いながらも、作り笑いで答えた。「だから気にしてないって、それは。幼馴染が困っていたら、助けるのは当然のことでしょ?」「気にしてないなら、なんでエルドリッヒさん達に噓を吐いていたんだよ」「それはノートを手伝いたくて――」「そっちの噓じゃない。スキルを偽っていた方のやつだよ。自分の実力を過少に申告しているでしょ?」「……」 そこまでバレていると思わなかった。 動揺で顔が引き攣っていくのが、自分でもわかった。「ミーヤは俺に裏切られたことをまだ気にしているんだろ? だから、『光り輝く剣レイダーズ』のみんなに自分の実力を隠しているんでしょ?」「っ……」「もういいよ。隠さなくて。大体わかっているから」 噓だ。ノートは何もわかっていない。 わかっているんだったら、さっさとロズリアちゃんと別れて、わたしだけを頼ればいいんだ。 今度はわたしがノートを捨てる番になるんだ。「俺に言いたいことがあるんでしょ? 不満だってたくさんあるんでしょ?」 あるに決まっている。文句だって言い切れないほどある。 だけど、それを言ったら、ノートはわたしにもう執着しなくなる。 それはわたしの望む展開じゃない。「ちょっとはあるかもね。だけど、文句を言うほどじゃないよ」「やっぱり正直に打ち明けてくれないんだね……」 ノートは肩を落とす。 肩を落としたいのはわたしの方だ。 もういいから。過去の話なんてしたくない。 わたしの思い通りに動いてよ。昔みたいに。「ねえ、ミーヤ」