「は、はい」 遠慮がちに琴音ちゃんは俺の前の席の椅子に座った。 机の上でお菓子の袋を開け、きのこの山とたけのこの里を仲良く半分こ。「……はい、どうぞ」「あ、ありがとうございます」 申し訳なさそうにたけのこの里を受け取って。 琴音ちゃんは、俺のほうをチラ見しつつ、ボソッとつぶやいた。「……好みが違っても、いいのかもしれません」「え?」「だって、同じものを奪い合いにならずに、こうやって仲良く分けられますもんね」「……うん、そうだね」 そっか。 そういう考え方もあるんだなと、俺は素直に感心した。 ネガティブなほうではなく、ポリア〇ナのように『よかった探し』をしなきゃだめだな。「……あんなにムキになっちゃって、ごめんなさい」「いや……俺のほうこそ、ごめんなさい」 おたがい謝罪してから。 そっと、机の上にあった琴音ちゃんの手に、俺の手を重ねると。「……あっ」 触れ合う手と手があったかくて、琴音ちゃんは安心したように思う。「仲直り、だね」「は、はい!」 これで仲直り完了。 なんだかんだ言って俺もホッとしたよ。 あんなくだらないことで意地を張ってたのがバカみたい。「祐介くんに嫌われなくて、よかった……」「……そんなことで嫌うわけないだろ。あ、でも」「でも?」「ほかの男と琴音ちゃんを奪い合う時は、絶対に譲らないからね」 ちょっとだけ力強く宣言。男らしい自分に酔いたいだけの言葉かもしれないけど、琴音ちゃんは嬉しそうだ。「ゆ、譲られても困ります。ドナドナはイヤです」「はは、仔牛と同じ運命にはさせないから」 きのこの山をむさぼり食いながら約束した。 だいいち仔牛どころじゃないだろこれ。成牛ホルスタインもびっくりだぞ。 ──なんて、琴音ちゃんのどこを見てそう思ってるかは内緒だ。「そ、そうです。仔牛だって、乳しぼりされる相手くらい自分で選びたいに決まってます」「ぶはっ!!!」 きのこの山を吹くわそんなん。「げほっ、いや、たとえが」「わ、わたしは祐介くんなら、いつでも」「だーかーらーそれはないって! だいいちまた初音さんに」「…………あ、ああっ!」