ぶはぁっ……あれ、私は……」 冷たい感触に目を覚ます。気がつくと、スツールに座らされており、体はびしょびしょに濡れていた。「これから第3ラウンドよ。行ってきなさい」 状況が飲み込めないまま、再びセコンドに青コーナーから追い出されてしまう。まだ終わらない。体中痛くて、これ以上何かが出来るわけでもないのに。「良かったわ。まだまだ殴れそうで」 赤いグローブを力強く打ち鳴らしながら、長い青みがかった髪を揺らして迫ってくる優花。梨花はフラフラと体を揺らしながら、なんとか優花に近づいていく。最早、グローブを持ち上げることすらままならない。 顔やお腹に、優花のグローブが何度も何度もねじ込まれていく。可愛らしかった顔は青黒く腫れ、お腹も痣だらけ。それでも、梨花が失神してダウンするまでは試合は終わらない。「はぁっ!!」 「あがぁっ!!」 梨花のお腹にグローブが埋まり、大きく体がくの字に曲がる。口からはにゅるりと、血や涎で汚れたマウスピースが覗き出す。剥き出しになっている顎を優花のアッパーが思い切り打ち上げる。 耐えきる力もなくなっていた梨花の体は、宙を舞い、リングを覆うロープを飛び越えた。 かろうじて、膕がロープに引っかかり、硬い床にぶつかることは免れる。 白目を剥きながら、梨花の重さに揺れるロープとともにブラブラと揺れる梨花。グローブがはめられた拳をバンザイするかのようにしながら、白目を向いてしまっている。「ふふ……また処刑してあげるわね。新人さん。私の顔を殴ったの、まだ許してあげないから」 デビュー戦で、地下ボクシング界の死神に打ちのめされ、会場の観客に無様な姿を晒してしまう梨花であった。