「えっ、何体いたのかしら。凄い量の塵の山じゃない」「ええと増援があったから34体かな。それほど広い部屋じゃないのに、ずいぶんと出てきたね」 そのとき、わしっと僕らの頭が包まれた。 見上げるとウリドラの優しい笑みがあり、くしゃくしゃと髪の毛をなでてくる。「ふ、ふ、独創的でかつ効果的じゃった。初めての連携とは思えぬ精度だったおぬしらに、文句なしの合格をやろう」 気恥ずかしく、何やらくすぐったい思いもある。 社会人だというのに、こんな風に褒められるとは思わなかったよ。 クスクスと3人で笑い、そして奥の扉へと向かった。 ときおり小部屋があるのは、ひょっとしたら休憩のためのものかもしれない。 補助があるとはいえ、まだまだ技能スキルの低いマリーは疲れを覚え、この日は毛布に包まれて眠ることにした。 やあ、初日にしては調子が良かったね。 まったく、明日が月曜じゃなければもっと楽しめるというのに。 などと考えていると、つんっと額を突付かれた。薄暗いなか見上げれば、ウリドラが悪戯ぎみの瞳をこちらへ向けている。「ほれ、一つ忘れておるじゃろう」 そう言い、続けて彼女は魔具を指さした。 これに何か問題でも?と問いかけそうになったが、すぐその理由に気がついた。「あ、このまま寝たら僕らは消えて……」「そう、上の者たちか周囲の者に怪しまれる。どれ、だいぶ構造は把握したし、こればかりは手助けしてやろう」 構造を把握したとはどういう意味だろう。 怪訝に思う僕の前でウリドラはひょいと魔具を摘まみ上げ、そして立体地図を浮かび上がらせる。 僕らの位置を知らせる光源へと彼女が触れると、ヴンとわずかにそれが揺らぐ。「あ……ひょっとして、僕らの位置情報を操作した?」「うむ、正解じゃ。ぬしら現うつつの者は、情報関連に聡いのう」 パチンと音を立てて立体地図は空間から消える。どうやらこれで気にせず眠りにつけるらしい。 ちらりと横を見ると、うつらうつらとマリーは船を漕ぎ出していた。 慣れない迷宮で気張っていたところもあるだろう。それでも一言も弱音を吐かないのは立派なものだ。 カバンを枕にしていたが、どうも合わないらしく寝ぼけまなこで胸の中へと潜り込んでくる。それがまるで猫のようで、あるいは子供のようで可愛らしい。 ウリドラもこちらへどうぞ、と開いた毛布だったが、やんわりと彼女は押しとどめた。「うむ、前にも言うたがたまには母体へ戻って共有をせねばならぬ。今夜はゆっくりと2人きりで過ごすが良い」「あ、そういえば……。でも、ここから歩いて戻るのかい?」 いいや、と竜は首を横へ振る。 すい、と手を振ると壁に黒い染みが広がった。どうやら魔導竜は秘密の抜け穴を作れるらしい。「また明日に、その杖が戻った時に来るとしよう。それではな、少年よ」 指でキスを送るしぐさを見せられ、少しだけ頬は熱くなる。妙齢の彼女はそのような動きだけで色気を伝えてくる人だ。「じゃあ、おやすみウリドラ。また明日ね」「うむ、おやすみカズヒホ。良き剣の腕であったぞ」 あなたこそ、と呟くとウリドラはにこりと綺麗な笑みを見せてくれた。 やあ、一日だけとはいえ彼女と別れるのを寂しく感じるとはね。 ひらひらと手を振る彼女を、僕は寝ぼけまなこで見送った。 おやすみなさい、また明日ね。 いつの間にやら毛布は温かく変わっており、すぐに僕の瞳は閉じられた。