身振りをまじえて食べ方を教えてあげると、恐る恐る黄金色の麺をつかみ、髪をかきあげながら啜る。 ずずず、と麺は唇を抜けてゆき、そして縮れているからこそ大量のスープを口内へと運ぶ。んんっ!と大きく目を見開いたのは、どこかほっとする醤油味、そして旨味たっぷりのダシ、しこしこと歯ごたえのある麺によるものだ。「んんんっ!」 はふっ、と湯気混じりの息を吐き、また少女は咀嚼する。 冷えた身体にとって、これは堪らない。動物というものは己に足りていない栄養を察知し、美味しいという信号を送り「もっと食べろ」と命じてくるものだ。 だからこそ熱を失っているとき、温かいものは味を高めてしまう。初めてのラーメンというパンチある味わい。そして脳からの「もっと食べろ」という命令は、極めて抗いがたいものだろう。「の、のう、そろそろ交替のときじゃろう? 分かっておるぞ、イルカを奪ったわしに怒っておるのじゃろう?」 そわそわと勝手に謝罪を始めるウリドラだけど、エルフさんはもうラーメンに夢中だ。ぺしぺしとウリドラの手をはたき、スープで身体を温めてゆく。「おっ、良い食べっぷりだね。黒髪のお姉さん、こっちは味噌バターね」「待っておったぞーー! ほれ、ちゃんと後で交替せねばならぬぞ、マリー」「んぐっふふ(わかったわ)」 そうそう、プールあがりは味噌バターも良いね。 ふんわり香るバターは、これまた実に食欲をそそる。たっぷり盛られたコーン、もやし、それと柔らかそうなチャーシューにバターは絡み、食べる前から直感する。これは絶対に美味い、と。 ずぞぞぞっ。 黒髪の美女がためらいもなく麺をすするというのも、どこか変な光景だ。 切れ長の瞳をぱちりと見開き、ちょうど目があった僕へ「バター美味しい!」と無言で伝えてくる。 ずるいことに、ゆっくりとバターは溶けてゆき、途中で味に飽きないよう味をさらに濃くさせる。ある意味で計算された料理だなと感心させられるよ。 そして2人の欲望は一致し、それぞれのどんぶりを変えるとまた異なる味へ魅了される。