まぁ、気にするべき事ではないか。 多分、彼女はコミュニケーションが得意な人間だ。 人懐っこい笑顔に、平気で相手と距離を詰める事が出来る。 まだ少ししか会話をしていないが、こういう人間は相手との距離感を掴むのが上手い。 相手が踏み込まれると嫌な領域を、しっかりと把握しているのだ。 まぁ、平気で相手の領域ガツガツと踏み込んでくる奴もいるけどな。 例えばポンコツ教師とかな……。 それと、彼女は俺達の事をジロジロと見たり、物珍しそうに見ない。 それだけで好感が持てる。 ギュゥウウウ――!「ちょっ! イタイイタイイタイイタイ! おい、どうしたんだ!?」 何故か急に、桃井が俺の手の甲をつねってきた。「店員さんの方をジッと見てた……」 俺が桃井の方を睨むと、桃井が頬を膨らませて拗ねていた。 えぇ……。 確かにあの店員さんの事を考えてたから見てたけど、なんで怒ってるの……? あれか、女の子をジロジロと見る男は最低と言う奴か? 先ほどの店員の女の子が、苦笑いでこっちを見てるし……。 とりあえず、俺達も早く席に行った方が良いだろう。 俺はそう思うと、桃井を連れて席に着いた。「それじゃあ、すぐに準備するから待っててね」 そう言うと、店員さんは厨房へと行ってしまった。「随分と仲が宜しい事で……」 そう言って、桃井が光を無くした目で俺の事を見てくる。 おぉい……。 なんでこいつ、こんな目をしてるわけ……? ていうか、さっきまでジェットコースターに怯えて涙目だった可愛い女の子は、一体何処に行ったの……? 俺はそんな風に現状の桃井に面喰いながらも、桃井の誤解を解くことにする。「仲が良いって、俺とさっきの子は初対面だぞ?」「へぇ……?」 俺は桃井に事実を告げたはずなのに、桃井が疑っている様な目で俺の方を見てくる。 おかしいな……。 先程の俺と店員さんの会話を見ていたのなら、初対面だとわかるだろ……? ただ、今の桃井にどれだけそんなことを言おうと、意味が無いだろう。 だって、この目をしてる桃井は正気じゃないもん……。「あの店員さん、注文を聞いて行かなかったのはなんで?」 少し時間が経ってから、桃井がそんな風に聞いてきた。 どうやら正気に戻ったようだ。「もう注文は済ませてあるんだよ」「え?」 俺の言葉に桃井が首を傾げた。 ただ、わざわざ説明する必要はないだろう。 それではサプライズにならないし、俺の視界には先程の店員さんが入っていた。