さて、引き続き迷宮の探索だ。 あたりまえだけど迷宮から太陽を見ることは出来ない。しかしそれでも僕の時間への感覚はかなり鋭い。でなければ月曜に目覚め、会社へと向かうことができないから……って、少しだけ悲しい理由だね。 そういうわけで今はだいたい午後4時くらいだ。昼食を終えてから2時間ほど過ごした計算になる。 その間、僕はとても大変だった。まあ、主にウリドラからの訓練のせいだけど。 ガキュッ!という音は鋼同士の当たる音だ。 火花じみた破片といい、まるで弾丸が跳ねたかのように見える。しかし、ただ剣と刀が当たった音に過ぎない。 いんいんと揺れる模造刀を黒髪の女性はじいと見つめ、それからこちらへ黒曜石に似た切れ長の瞳を向けてくる。 その中にわずかな殺気が漂っているのは、彼女の血が滾りはじめているかのようだ。「ふうむ、なかなかやる。どうもぬしは速さに慣れておるのう。いつもぴょんぴょん飛びまわっているせいかもしれぬな」「お褒めにあずかりまして……。とはいえ虫みたいな表現だね」 手にへばりついた汗をズボンで拭き、どうにか平静を保って答える。どうやら僕も男性らしく、師を相手に多少なりとも見栄を張りたがる性分らしい。 地面に転がっている8つもの塵山は、先ほど僕が仕留めた魔物だ。あっさりと片付いた場合にはこうして追加特訓をしてくれるという実に優しい……まあ野球部のシゴきみたいなものだね。 本当にぎりぎりまで鍛えてくれるものだから、チンと彼女が武器を納めたとたん、僕はガクリとひざをついてしまう。「すごいわねえ、いまの短時間で2つも武器レベルを上げるなんて。……そのまま座っていて、風邪をひくから汗を拭いてあげる」「ありがとう、マリー。正直、たった2つしか上がっていないのかと驚くよ」 それほどに密度のある修行だと感じさせる。 夢の世界なので痛みというのはほとんど無い。それと同様に疲れもほとんど感じないのだが、集中しすぎたせいで視界がくらりと歪んでしまう。 目の前に、ほかほかと湯気を立てるコップが現れる。見上げれば腰までの黒髪をしたウリドラが立っていた。「意識せず、凝縮した時間をうまく扱えるようになってきておる。新たな技能候補アザースキルが目覚めるやもしれぬぞ」「凝縮した、時間?」 聞きなれぬ言葉に僕とマリーは小首をかしげた。 スポーツ選手とかはアドレナリンを流し、精神的に高揚するような感覚を覚えるらしいが……それに近いだろうか。 ごくりと茶を飲むと、甘さがジンと身体に染みる。 冷たいほうが嬉しいけれど、迷宮は冷えるので体温調整も大事だろう。もちろんそれは現実世界での常識であり、この夢の世界ではどうだか分からないが。「そっちはどうかな、マリー。使役レイバーのレベルは上がった?」「ええ、これで14ね。レベル2から練習しているから上がりは早いでしょうけれど、ウリドラの杖のおかげでかなり使い勝手は良くなってきたわ」