ごう!と響く風を切るような音に、そんな言葉が混じる。同時に身体はひどく強張り、じとりと粘ついた汗が流れてゆく。 幸いだったのはマリーが柔らかく抱きしめてくれていて、ほおと安堵の息を漏らせたことだ。 ぎゅっとしがみつくと、彼女は良し良しと撫でてくれる。 長いことそうして撫でてくれたおかげで、ゆっくりと身体の緊張は解けていった。 誰もいないはずの居間で、魔導竜は浴衣姿で柱にもたれかかり、膝をかかえて座っていた。 あれこれと身に宿るシャーリーから何事かを言われていたが、しかし彼女はじっと動かない。そうあるべきと彼女は決め、あえて傍観者でいることを選んだのだ。 黒曜石を思わせる瞳でふすまの向こうを見つめ、そして形の良い唇を開かせる。「ふむ、そやつが夏夜子、か……」 漏れた声は誰の耳にも届かず、潮騒に流れて消えてしまう。 時計の針はゆっくりと進み、もう夕食の時刻へ近づきつつあった。 疲れた旅人を癒すための食事は、きっと彼を癒してくれるだろう。いや、新鮮な魚介を初めて口にする彼女らこそ、一番に楽しむか。