六日目 ――「目だけで敵を追うものではない。背中に目を生やすのよ。空気や大地の揺れ、臭い、音……戦場で得られる情報は有限。けれど勝つ方法は無限にあるのよ」「そんな事、軽くやってしまうのが私の素晴らしいところよね!」「魔法士だからといって魔法で敵を倒す必要はないよ。ポーアさんの戦いを見ればそれは一目瞭然でしょ? 選択肢の一つとして、自らの四肢を武器化する事も大切さ」「えぇ、十二分に実感しています。大丈夫、僕にはそれだけの可能性がある……!」 ―― 七日目 ――「……合格よ。的確なサポートだったわ」「ふふん、当然でしょ!」「こっちも合格だよ。まったく、末恐ろしい魔法士だね」「ありがとうございます」 どうやら、あの二人もブライトとフェリスの才能を認めたようだな。 俺が張っている罠の外まで連れて行っての指導だったけど、それだけでソドムの街に迫るモンスターの数がかなり絞られた。「人の掌の上で踊るってのも悪くないものだね、ポーアさん?」「ははは、それはジョルノさんに信用されたって事でいいんですかね?」「ちょっと前からポーアさんの事は信用してるさ」 それは初耳だな。「あのリーリアが心を許す相手だよ?」 それも初耳だな。「マスター! お腹空きました!」 耳タコだよ。 チャッピーもポチと一緒に色んな特訓をしていたみたいだけど、一体何をしていたのか……くだらない事じゃないといいけど。「そういえばマスター! ついにやりましたよ!」「ん? くだらない事じゃないだろうな?」「とんでもないです! チャッピーにとって絶対に必要な事ですよ!」 ほほう? ポチのわがままでチャッピーの指導は任せたからな。 もしかしたら物凄い特訓が出来て、素晴らしい成果が出たのかもしれない。 俺は広場で羽を広げるチャッピーの笑みを、腕を組みながら見守った。「父上! しかとご覧ください!」「ちゃんと聞いててくださいね、マスター!」 見るのか聞くのか……一体どういう事だ?「アォオオオオオオオオオオオンッ!」 ………………ん?「ね、ね!? 凄いでしょう!?」「……ん?」「アォオオオオオオオオオオオンッ!」「ほら! 私の遠吠えにそっくりでしょう!?」 ま、まさか……この貴重な七日間を、遠吠えの練習に付き合わせたのか……!? そう思うより早く、俺はポチの頭をスコンと叩いていた。「アイタッ!? 何するんですか!? 動物虐待ですよ!?」「そこに、シロの頭が、あったからだよ!」「それはそれは叩きやすいでしょうね!」「威張る事じゃない! 他の成果はないのか!?」「この遠吠え以上の成果があると思ってるんですか!?」「思ってねぇよ! 思いたいんだよ!」 チャッピーは、何故俺とポチが言い合いしているのかがわからない様子で終始キョトンとしていた。 結局、ポチはチャッピーに様々なモンスターに応じた戦闘方法をちゃっかり教えていた。 しかし、戦闘技術よりも優先したのがこの遠吠えってんだから、ポチらしいといえばポチらしいか。 そんな言い合いもいつも通り終わりを見せ、ムスッと広場のベンチに腰掛けていた俺とポチに声を掛けてきた人物がいた。「む、ガルムではないか。父上と母上は現在倦怠期だぞ。近づくと蒸発するやもしれん。注意しろ」「ヒヒヒ、倦怠期なのに隣同士ベンチに腰掛けるってのも面白い構図だな」 まったく、チャッピーのヤツ……ブライトとフェリスと長く一緒に過ごしたせいか、やたら偏った知識を吸収してるな。 これも一つの成長だから別に悪くはないけど、これから先の事を考えると困ったもんだな。 それにしてもガルムは一体何の用で俺の所へ来たんだ?